
フォルクスワーゲン・ゴルフRに乗る建築家の「質実剛健」な自邸は、コンクリート打ちっ放しでありながら、表情の豊かな素敵な家だった。 【写真】この記事のくわしい写真はこちら
クルマも家も質実剛健
建築家の自邸とクルマ選びには、似た部分が多い。ある種の哲学がどちらにも反映されているのだ。今回紹介するのは、川辺直哉さん(50歳)のお宅である。同氏が建築やクルマで好きなスタイルは「質実剛健」。だが、実際に話を伺ってみると、この言葉では表しきれない深い想いがあるのが興味深かった。 川辺さんは人気の集合住宅などで知られる建築家だ。個人住宅を含め、これまでにGマークを合計で21個も獲得している。誤解を恐れず言い切れば、今の時代に相応しい無駄のないグッドテイストの住宅を、しかるべき個性を与えながらも限られた予算の中で実現させている建築家だ。まさに質実剛健。 そんな川辺さんのお邸は、四角い箱が3つ合わさったシンプルな形をしている。右の写真で家主が立っているのは、二つの箱が45度で接合したこの家の中心となる場所。表情のあるコンクリートの打ち放しの壁に囲われた空間の中を、鉄製の螺旋階段が、高さの異なるフロアーを繋いで上に伸びている。天井の一番高いところでおよそ6m。単純な構成の家だが、内部は随分と複雑になっており、立つ位置や角度を少し変えるだけで見える景色が全く変わってくる。そのため、延べ床面積が100平方メートルの家とは思えない広がりを感じるのだ。
拘りの屋内空間
間取りは、1階に二人のお子さんの部屋と主寝室、バスルームとトイレにシュークローゼットが。子供部屋は「すぐに出ていってしまうのだから」と、最小限のスペースしかない。その分ホールスペースは広くとられ、洗面所もこの一角に設けられている。また、土間の前のエリアは、ちょっとしたサンルーム的空間として利用されているそうだ。そして2階に上がる手前にも小さな踊り場があり、2階はダイニングとキッチン、そして親子で使っているスタディコーナーが。そこから階段で数段上った先が、2.2mしかない天井高が囲まれ感を生んでいるリビングルームだ。個室数は最小限。家の殆どは、扉や間仕切りが存在しないひとつながりのオープン空間で、居心地の良い場所がいくつも設けられた、どこに居ても家族の気配が感じられる家だ。 やはり建築家の自邸である。けっして普通ではない。それどころか、相当に特別な空間に身を置いている気さえする。なんといっても、コンクリートと鉄といったハードな素材を使っているうえ、最後に川辺さん自らが加えたひと手間が効いている。壁や天井にヤスリをかけて、独特の表情を作り出しているのだ。この壁は、ツルっとした仕上げのコンクリート打ち放しを好まないクライアントへの、ショールーム的な意味合いもあるそうだ。さらに、様々な場所に設けられた窓からの光が作るコントラストが劇的である。 一方床や家具は木製で、室内には多くの観葉植物が数多く置かれ、印象はソフト。対照的な要素を組み合わせることで、躯体に使われているハードな素材の印象が薄れ、絶妙な雰囲気となっている。こうして生まれた川辺邸は、普段手掛けるGマークを獲得するような建築とは趣の異なる個性の強いもの。スタッフに任せず、業者との細かなやりとりまで全て自分で対応した。それだけ想いが詰まった建物なのだ。 そもそも川辺さんが45歳でこの家を建てたのは、二人の子供たちの「実家を作る」ため。建っているのも、川辺さん夫婦の実家にも近い町だ。以前は近所の賃貸住宅に住んでいたが、子供たちの環境が大きく変わらないようにと土地を探した。子供が家から巣立っても、親や友達の住む町にいつでも戻ってこられるのが実家の良いところ。奥様はキッチン以外の部分は全て川辺さんに委ねてくれたが、内心、建築家の自邸にありがちな、使い勝手の悪い家ができてしまうのではと心配したとか。しかし完成した家には大満足だという。20歳になる上のお嬢さんもこの家が大好きで、友達をよく連れてくるそうだ。先日も川辺さんがスタディコーナーで仕事をしている時に、泊まりに来た友達とリビングでお喋りをしていたことがあったとか。なんとも素敵な親子の距離感である。
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