新型コロナウイルスの影響で不要不急の外出が禁止されてから7週間が経ったロサンゼルス(LA)で、8日から経済活動再開に向けた第一歩として一部の小売店で営業再開が認められ、約2か月ぶりに店がオープンしました。10日の母の日に合わせるように花屋の営業も認められたことで、さっそくダウンタウンのフラワーマーケット(花市場)は大勢の人で賑わっていました。ただ、営業再開とは言っても依然として厳しいガイドラインが設けられています。まだ感染者数が増え続けているLAでは、再び感染が爆発的に拡大する第2波への警戒を強めており、経済活動再開の第一歩となる第2フェーズの初期段階で認められたのは衣料品店や書店、スポーツ用品店、玩具店、花屋などの小売店でのカーブサイドピックアップ(オンライン等で注文した商品を店頭で受け取る)のみ。つまり、比較的感染リスクが低い必要不可欠な事業以外の店舗の営業を認めたものの、客が店内に入って自由に商品を選んで買い物をすることはできず、ガルセッティ市長が言うように「ベイビーステップ(ごく小さな一歩)」でしかありません。

ショーウインドーに「カーブサイドピックアップ」の文字を掲げる衣料品店
ショーウインドーに「カーブサイドピックアップ」の文字を掲げる衣料品店

先月末からすでに全米の多くの州で経済活動の再開が本格化しており、南部の一部地域では感染リスクが高いとされる美容室やスポーツジムなどの通常営業が始まっていますが、ここLAでは今回の規制緩和で街がどのように変わったのか取材してみました。ベニスビーチにあるおしゃれな雑貨や衣料品店が立ち並ぶLAの人気スポット「アボット・キニー」では、ほとんどの店が「臨時休業」の張り紙を張ったままで実際に営業を再開している店舗はごくわずか。一方、高級ブランド店が軒を連ねるビバリーヒルズのロデオ・ドライブでは、ルイ・ヴィトンの前に高級車が横付けされ、店から出てきた店員が車の窓越しに商品を手渡す姿があり、カーブサイドピックアップで営業を再開していました。しかし、クリスチャン・ディオールやブルガリ、エルメスなどは休業したままで、ここでも営業を再開している店舗は一部だけです。ロックダウン当初に行った時よりも人通りは増えてはいるものの、ほとんどがレストランやカフェにテイクアウトしに来た人か母の日だからか家族連れで散歩する人たちがいるくらいで、大きな変化は見られません。

経済再開翌日のロデオドライブは人も車もほとんどいません
経済再開翌日のロデオドライブは人も車もほとんどいません

サンタモニカやハリウッド界隈もほとんど同様で、先月よりも若干車が増えたと感じることはあっても混雑はしておらず、人出も以前より少し増えている程度です。ショッピングモールは閉鎖されたままなので、人気野外モール「グローブ」もひっそりとしています。ただこれは筆者が暮らすLAのウエストサイドに限ってのことで、他の地域では「再開した店舗に行列ができていた」「渋滞が戻った」という状況も報告されています。実際LA南部のオレンジ郡(OC)では、先月末から「経済再開」を求める大勢の人たちがデモを行っており、今週末にはビーチが再オープンされ(LAではビーチは閉鎖されたまま)、サン・クレメンテではカリフォルニア州の行動自粛制限に反してすでに店内飲食を始めるレストランやバーも出ており、経済再開には大きな地域格差があるようです。

さっそくセールの看板を掲げて営業を再開する衣料品店も
さっそくセールの看板を掲げて営業を再開する衣料品店も

今巷で問題となっているのは、「経済を再開させるのか、人命を優先するのか」ということ。カリフォルニア州では後者を優先させるために経済再開を厳格に4つのステージ分けして段階的に緩和する方針を取っていますが、この対応については見事なまでに「ブルーステイト(民主党が優勢の州)」と「レッドステート(共和党が優勢の州)」で意見が真っ二つに割れています。NBCテレビによると早期の経済再開に不安がある人は68%に及ぶといいますが、その多くが民主党支持者だと言われています。民主党支持者は8割ほどの人が外出制限措置の継続を支持する一方、共和党支持者では約半数ほどだといいます。OCでデモをしている人たちを見ても、多くの人がトランプ大統領の顔写真や星条旗を掲げ、「コロナはフェイク」「偽科学」「ニューサム知事(民主党)はいらない」などのプラカードを手に「自由経済」を求めて抗議をしており、共和党支持者が多いことが分かります。LAは民主党支持者が多いせいか、早急な経済活動再開には二の足を踏んでいるのかもしれません。

入り口をテーブルでふさいで客が中に入れないようにして営業をするお店
入り口をテーブルでふさいで客が中に入れないようにして営業をするお店

今後はどのように経済を再開していくのかという議論が加速することになりますが、現時点でのカーブサイドピックアップでは洋服の試着や商品を手にとって鏡を見ることもできず、フレグランスやキャンドルなども匂いを嗅いだり、化粧品を試したりすることもできないため、実質的に経営を成り立たせるのは極めて困難と言えます。店頭にテーブルを置いて一部商品を並べて販売する店もあるようですが、それでも限界があります。ロックダウン解除後は以前とまったく同じ生活に戻ることはできないという意見も多く聞かれ、新たな日常を模索する「ニューノーマル」という言葉も頻繁に耳にするようになってきました。いずれにしてもLAの経済再開はまだ小さな一歩を踏み出したばかりです。

母の日を迎えて花屋にはにぎわいが戻るも、店の前にはロープが張られて中に入って花を選ぶことはできません
母の日を迎えて花屋にはにぎわいが戻るも、店の前にはロープが張られて中に入って花を選ぶことはできません

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)