「量子技術イノベーション戦略 最終報告」(2020年1月公表)に基づき、2021年2月、量子技術の基礎研究から技術実証、知財管理、人材育成に至る産学官連携を加速すべく、大学や研究機関に8つの中核拠点を整備する「量子技術イノベーション拠点」事業が発足した。6月、ドイツ大手企業10社は、自動車、化学・製薬分野などでの量子コンピューティングの活用可能性を探るべく、「量子技術活用コンソーシアム(QUTAC, Quantum Technology and Application Consortium)」を設立。フォルクスワーゲン、BMW、BASF、ベーリンガーインゲルハイム、メルクなどが名を連ねる。 近年、量子ビット数も急増。Googleは53量子ビットで「量子超越」を実証したと発表、IBMは、2023年末までに1000量子ビットを目指す。量子コンピューティング投資は過熱の一途。研究開発にかかわる政府支出はグローバル合計で年間220億米ドル。様子見を続けてきたベンチャーキャピタルも、ここに来て投資を急増させている。(図A1参照)
可能性と現実のはざまで苦悩する経営者
自動車、金融、化学業界がアーリーアダプター(初期採用層)となって量子コンピューティング市場をけん引、ユースケースの開発に取り組んでいる。しかし、他業界の経営層はこの新技術をどう捉えているのか。戦略的な意味付けが与えられているのか。この疑問に答えるべく、ローランド・ベルガーは欧州各業界110人の経営層を対象に調査を実施した。その結果は興味深いものだった。 「量子コンピューティングは10年内に業界環境を劇変させる」との見立てを表明した経営者が63%にも達した一方で、「自社戦略への適用検討が進んでいる」と回答した経営層はわずか8%。57%が「現状無策」との回答だった。
ユースケースは組合せ最適化問題から
量子コンピューティングの想定ユースケースは4つ。組合せ最適化問題、シミュレーション、機械学習、量子暗号の順に適用が進むだろう。 1、合せ最適化問題 10個の小包を10か所の届け先に巡回配送したい。どの順番にどの小包をどの先に配送するか。組合せオプションは実に362万8800通り。届け先が1つ増えれば、組合せはこの11倍、3991万6800通り。2進数で演算処理する古典コンピュータでは、変数の多い最適化問題に太刀打ちできないが、量子コンピュータなら全オプションの同時並行処理が可能だ。 2、シミュレーション 複雑な分子構造のモデリングも典型的ユースケースだ。古典コンピュータは量子力学プロセスを再現するに非力であり、研究者は膨大な時間と費用をかけて合成化学で分子構造のコピーを作らなければならない。量子コンピューティングはここに革命をもたらす。例えば、ペニシリンのモデリング。286論理量子ビット機が実現すれば研究は劇的に加速できる。 3、機械学習 コンピューティングパワーの増大を背景に、AIや機械学習は進化を続けている。しかし、ムーアの法則にも物理的限界が近づきつつある。量子コンピュータはこの限界に縛られない。全く新しいアルゴリズムによるニューラルネットワークの学習が可能だ。問題は、古典コンピュータ向けデータセットの移行。量子コンピュータ向けデータ変換と再計算が全てのケースで有効とは限らない。 4、量子暗号 数学者 Peter Shorが提唱した素因数分解アルゴリズム。古典コンピュータで数十年を要する素因数分解を、量子コンピュータで数時間内に解く道を開いた。これは、素因数分解に基づく暗号化(RSAなど)が破られる可能性を示唆する。暗号鍵を分割して「光子」に乗せる「量子鍵配送」は、量子の観測不可能性に基づく「破られない暗号」の可能性を秘めている。
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