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Wednesday, March 2, 2022

人を成長させるための4つのステップ(後編)|要求する/評価する【全員を戦力にする人財育成術】6 | サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト - serai.jp

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空前の人手不足が続く中、企業が“できる人財”を採用することは困難な状況になっています。そこで、日本マクドナルドの「ハンバーガー大学」で学長や、「ユニクロ大学」部長を務めた有本 均氏の著書『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』から、採用した人をできる人財に育てる方法を紹介します。

文 /有本 均

「グローイング・サイクル®」は、人を成長させるための4つのステップです。「人を大切にする企業文化」という前提のもとで、「1基準を示す」「2教える」「3要求する」「4評価する」という4つをくるくる回すことで人は成長していくという考え方であり、育成の手法です。前回は、「1基準を示す」「2教える」についてお伝えしましたので、今回は、「3要求する」「4評価する」について説明していきます。

グローイング・サイクル® 4つのステップで人は成長する

3.要求する

教えたことは、現場の仕事で実践しなければ意味がありません。そのために欠かせないのが「3要求する」ことです。つまり、現場において上司や先輩が、教えたことを実行に移すことを要求し、やらない/できないことを見過ごさない、ということです。言い換えれば、「後追い」をしっかり実行することです。

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「要求しない限り、部下は応えてくれない」と言われましたが、まさにその通りだと思います。ですが、これができていない企業が、とても多いのです。集合研修でもOJTでも、やりっぱなしで終わってしまうことは少なくありません。「いや、教えたんだけど、できないんだよ」と言う現場の方、人事の方がいますが、それは典型的な反応で、要求しないので「教えただけ」になってしまっているのです。

「コーチングの研修を店長全員にやったんだけど、全然変わんないよな」などという不満の声もしばしば聞かれます。挙げ句の果てが「あの研修、無駄だったよね」などと身も蓋もない結論になってしまう。こうなると、教える意欲は一気に冷めてしまいます。

基準を示した上で、つまり必要性を検討した上で教えたことなのであれば、それが無駄に終わることはないはずです。ではなぜ、そのような声が上がってしまうのか。それは、教えた後、それを実行することを「要求しない」からです。加えて言えば、次の「4評価する」ことがないからです。

教えたことを、現場の仕事の場面で実行することを要求し、結果について評価する。このプロセスがあれば、誰でもやるようになるのです。初めはうまくできなくても、評価という動機付けがあるなら、人は向上しようと努力するものです。面倒臭いことは人はやりたくありませんから、放っておいたら誰もやりません。

オペレーショナルな事柄を現場で指導すること、例えば調理技術をキッチンで教える、などというOJTの場合は、要求することは比較的、難しくありません。正解がはっきりしているから判断しやすい、ということもあります。難しいのは、コーチングやリーダーシップなどヒューマン・スキルに当たるもので、これはなかなか後追いしきれません。接客や、アルバイトなどの部下指導の場面を、いちいち観察するわけにはいかないでしょう。また、正解があるわけではない、という難しさもあります。

これができているのが、やはり日本マクドナルドです。例えば集合研修のケースでは、講座の後に必ず課題が出ます。具体的には、半年の間に現場の業務において研修で学んだことを実践できているか、というような課題です。そして課題をやった後は、必ず上司がチェックします。すなわち、後追いです。課題の具体例を挙げると、「2人のトレーナーを養成してください」「半年にわたって安定したシフトを作ってください」「3カ月、適切な発注をしてください」など、業務そのものです。

研修でそれらを学んだ後、個々のスキルが現場で活かされているかどうかを上司が判断するわけです。それでOKが出たら初めて講座が終了することになります。要求の仕方について、この「課題」「上司のチェック」という方法は、間違いなく育成にとって有効です。つまり、要求することを仕組み化するわけです。

新入社員研修でも、例えば挨拶の仕方を教わっても、配属されるとやらなくなる、などということはないでしょうか。教えられたことを実践できないのは、職場の先輩たちが要求しないからです。挨拶ぐらい怠ったとしても、誰も何も言わないのではないでしょうか。そこは、必ず要求する、ということが大事です。

また、そのように後追いするためには、上司が、部下が受ける研修の中身を知っていなければなりません。店長がコーチングの研修を受けてきたとしたら、その上司がコーチング研修の中身を知らないと後追いのしようがありません。これもまた、ハードルが高いでしょう。でも、本当に研修効果を出そうと思ったら、そこをやらないといけません。

なお、誤解を避けるために付言しますが、「要求する」というのは、必ずしも「厳しく命じること」ではありません。状況によっては、そういうこともないとは言えませんが、いわゆる「上から目線」ではなく、日常の場面で、普通の会話の中で表現することが大事です。そのために、日頃から雑談を増やすなど、話をしやすい雰囲気作りを心がけてほしいものです。最終的にはコミュニケーションの量と質によって、要求が相手にとって受け入れやすいものになるでしょう。

4.評価する

評価は、きわめて大事です。評価がなければ、せっかく教育したことが、身につかずに終わってしまう可能性が高いでしょう。教育によって、また現場での業務経験もふまえて、あるスキルを身につけ、それを実践するに当たって、それに対する見返りがないと、その実践は持続しません。

例えば、コーチング・スキルが身についたとしたら、部下のマネジメントに何らかのプラスの影響があるはずです。そこを評価するのです。できたことをやっているかどうか、評価をしていくことによって「1基準を示す」と「4評価する」がつながっていきます。

人財育成には、大きく2つのやり方があります。一つは「良いところを伸ばす」、もう一つは「ダメなところを直す」。これしか人を育てる方法はありません。

その評価というのは、その個人個人の良いところ悪いところに直接アプローチするものです。極端に言えば、教育をしていなくても、評価だけしていれば、育成という目標は半分は達成するのだと思います。もちろん教育は大事ですが、教育したことを実践してもらうには、評価が絶対に不可欠です。良いところと悪いところをはっきりさせる。それは、その人を育てるための愛だと思います。

このように、とても重要な評価ですが、仕組みによってではなく、経営者が「勘」でやっているようなケースもあるはずです。また、評価制度はあるが、うまくいっていない、という企業も多いと思います。目標設定をして、半期ごとに振り返るというような業績評価制度を実施している場合でも、その業績評価制度があるがゆえに、会社として業績が向上したり、企業体質が強化されたり、ということはあったでしょうか。

もちろん、業績評価制度が十分に機能している、という企業の方には、何も言うことはありません。しかし、それが機能していない、もしくは機能不全でモヤモヤしている、という企業の方には、以下を読んでいただきたいと思います。

マクドナルドとユニクロが優れているのは、特に「要求する」ことを徹底しているからです。決して、教えて終わり、あとは自分でやって、と放置していません。要求水準が明確であり、それをルールとして共通化しているために、どの店に行っても同じオペレーションができます。要するに「徹底力」がすごいのです。そのような背景があるからこそ、人が成長するのです。

もし、あなたが人事担当者で、「研修をやっているのに育たないんだよな」と感じているとすれば、それは会社の問題です。育たないことを当人たちの問題として片づけがちですが、違います。多くの場合は、「やりっぱなし」だからです。

そこで問われるのは、上司の育成力でしょう。教えたことを、現場で実践させるかどうか。それが育成力の違いを生みます。問われているのは、その上司がきちんと要求し、正当な評価をしているかどうかです。

必要なことは、学んだことを現場で実践しているかどうか、「後追い」することです。後追いするためには、上司が、部下が受ける研修の中身を知っていなければならない、と前述しました。

そこで、日本マクドナルドでは、新しい研修などについては、それを受講していない階層の社員に教えていました。また、2時間程度のショートバージョンの研修を実施することもありました。全国を回ってそれを店長に対して実施するのですから、ものすごい作業量です。ここまで徹底することは、簡単にはできません。新商品が投入されたときも、まずスーパーバイザーを集めて教え、次に店長を集めて教えます。そして、店長が店のスタッフに教えます。それが徹底力のベースなのです。

そこで、日本マクドナルドでは、店長の下に副店長が2〜3人。その下にアルバイトが50人ぐらい、というのが標準型。加えて、さらに10人以上の育成の責任を持つアルバイトリーダーがいます。つまり、いろいろな人が教えるという文化をうまく作っているわけです。

ユニクロも、それに似ています。教え方という意味では厳しめの教え方ですが、それが逆に徹底力につながっている。成長の原動力は徹底力だと思います。

マクドナルドの場合は、教え方は比較的ソフト。相手に気を遣いながら教えます。人種の多様性を受け入れるという現実が、アメリカのマクドナルドにはありました。アルバイトの人を尊重し、名前で呼ぶ、あるいは命令するのではなく依頼するというのがポリシーでした。


有本 均(ありもと・ひとし)
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 代表取締役会長、グローイング・アカデミー学長。1956年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年生からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年、日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、マクドナルドの教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長に就任。2003年、株式会 社ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。その後、株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役など、外食・サービス業の代表、役員を歴任する。2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。 日本マクドナルド、ユニクロ等を経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かし、世界中のサービス業の発展を目指す。

『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』
有本 均 著 ダイヤモンド社

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