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Friday, March 11, 2022

マリアナ海溝、海中録音の実験ミスで思わぬ発見|NIKKEI STYLE - Nikkei.com

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ナショナルジオグラフィック日本版
1台だけ無事に戻ってきたディープサウンド・マーク2(PHOTOGRAPH BY DIETER BEVANS)

それは、何かが起こったことを知らせる最初のサインだった。2014年12月、調査船ファルコーに乗船していたデビッド・バークレー氏が、船体に付けた水中マイクの音をヘッドホンで聞いていると、打ち付ける波の音に混じってかすかな破裂音がした。

船の下の海中では、2台の科学機器が、深い太平洋の底を目指してゆっくりと下降しているはずだった。そこは、マリアナ海溝の水深1万メートルを超えるチャレンジャー海淵。世界最深の海だ。

カナダのダルハウジー大学で准教授を務めるバークレー氏は、米スクリップス海洋研究所の大学院生だったときに、海中の音を録音する小型で安価な機械を開発するプロジェクトを始めた。海中の音を調べることで、海の構造がわかるだけでなく、クジラや潜水艦が発する独特のメロディーを聞き分けられるようになるかもしれない。

2台の機器がチャレンジャー海淵へ下降して海中音を録音し、また戻って来るまでの時間は、約9時間と予測されていた。しかし、予定の時刻に戻ってきたのは1台だけだった。

もう1台は、例の破裂音が聞こえたときに破壊されていた。電子機器を保護していた直径約40センチのガラス球が崩壊したのだ。残念ながらこの機器は失われたが、バークレー氏の研究チームは、その後、戻ってきた方の機器に録音されていた破裂音の音波を使って、チャレンジャー海淵の深さを新たに計算することに成功した。

チャレンジャー海淵の深さは、これまでも何度か計測されてきた。それらの計測値はたいてい1万900メートルから1万950メートルの間に収まっていたが、今回の数値はもっと深い、1万983メートルだった。この論文は、21年4月19日付で、海洋学の学術誌「Oceanography」に掲載された。

戻ってきたのは1台だけ

バークレー氏が開発した2台の機器は、それぞれ「ディープサウンド・マーク2」と「ディープサウンド・マーク3」と名付けられた。マーク2は水深9000メートルまで下降してそこにとどまり、海中の音を録音してから戻ってくるようにプログラムされていた。一方、マーク3は海底まで到達するはずだった。しかし、いったん海の中に沈めて姿が見えなくなると、後はどういう状況になっているのか追跡する術はほとんどなかった。

そこでバークレー氏は、あらかじめ船に水中マイクを取り付け、ここからも音を録音し、時折ヘッドホンで確認することにした。例の破裂音が聞こえたのは、そのときだった。その夜、まだ何が起こったのかわからないまま、戻ってくるはずの機器を探して水面に目を凝らした。しかし、波間に浮かんでいたのは1台だけだった。

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