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Saturday, October 15, 2022

野外生息のコウノトリ300羽突破 保護から保全へ新たなステップ - 神戸新聞NEXT

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 日本全国に野外で生息するコウノトリの個体数が今年7月末、300羽を突破した。飛来先も広がり、野生復帰へ初の放鳥があった但馬地域以外でも目にする機会が増えた。しかし、血統はなお限られており、遺伝的な多様性が乏しいままだと個体は脆弱(ぜいじゃく)で、再び絶滅の危機に直面する恐れもあるという。2005年の初放鳥から17年。関係者は「保護から保全へ」と、局面の転換を意識するよう訴える。(丸山桃奈)

 「数が増えるのは喜ばしいことだけではない」。コウノトリの郷(さと)公園(豊岡市祥雲寺)の江崎保男園長は9月中旬の定例会見で、こう問題提起した。

 江崎園長によると、園内ではなく、野外で暮らす個体の数が8月末時点で311羽を記録。今年は9府県で43のペアが繁殖し、80個体が巣立った。昨年に比べて24個体増えたという。

 初放鳥から野外での個体数は順調に伸びたが、新たな課題が出てきた。同園によると、今年の繁殖シーズン前は、野外250個体のうち、8割が同公園で飼育された5ペアから誕生した家系という。

 江崎園長によると、一般的に近親婚で生まれた個体は劣性遺伝子を引き継ぎやすく、先天的な異常や障害が発現するリスクが高まる。遺伝的な多様性をもたせるには、ロシアや中国、韓国に生息する個体との交換や、大陸から飛来して定着し繁殖していくのが理想だが、高病原性鳥インフルエンザの発生や国際情勢などで難しい状況が続いているという。この結果、ほとんど限られた家系の中でしか繁殖できておらず、近親婚の増加が年々、目立つようになった。

 血統に偏りがある交配が続くと、体の弱い個体が増え、再び絶滅に近づく可能性もあるという。江崎園長は、絶滅前の1935(昭和10)年に但馬地域で23のペアがいた記録を踏まえ、「遺伝的多様性を整えた上で最大30ペアが好ましい」と分析する。

 「保護から保全へと新たな段階に進む。野生復帰に向けて、かつての自然界の姿を目指すべきだ」。江崎園長はこう強調する。

 例えば、今の人工巣塔は個体を保護するため、他の動物から危害を受けるリスクの少ない地点に設置されているが、過度な保護策を見直す。コウノトリはマツの木に巣をつくる習性があり、早ければ来年にも、人工巣塔に代わってマツなどに巣を設け、自然に近い環境下で自ら営巣させるよう誘導する。国の特別天然記念物だが、ある程度の自然淘汰(とうた)も辞さない考えだ。

 また、血統を少しでも薄くするための効果的な放鳥も継続する。家系分析に基づいて同公園から放す個体を厳選する。

 コウノトリはヘビ、カエル、カメなどを食べ、湿地生物の中で最も強いとされる。個体が増えすぎると、他の希少な湿地生物を絶滅させてしまう可能性もあるという。「他の希少種を守るためにも、増えすぎると、繁殖制限をする必要も出てくる」と語った。

 県内では、越冬のために但馬から加古川、明石の湿地に移動する個体が増え、飛来を待ち望むファンも多い。日本コウノトリの会(豊岡市城崎町今津)などによると、但馬からの飛来の報告数は年々増えており、現在では全国で1日250件もの情報が寄せられる。江崎園長は「数の増加は喜ばしいが、野生復帰の折り返し。現状を知って、静かに見守ってほしい」と述べた。

     ◇

■引き続き保護優先の主張も

 一方、日本コウノトリの会の佐竹節夫代表は、これまでと変わらず保護優先が望ましいとの考えを示す。「国の特別天然記念物トキは同じ家系だが、奇形が出たり、繁殖に異常があったりしたわけではない」と強調。「コウノトリが300羽になっただけで、次の段階に進むのは早い。野生復帰の目的、何を目指していたのか、もう一度原点に返って考えないといけない」。

 豊岡市では明治時代からコウノトリを守ってきており、今もコメの無農薬栽培で生育環境を保護する農家もいる。「野生復帰を始めて、たかが十数年。まだ成功でも失敗でもない。引き続き保護していき、人と自然が共生できる社会を」と力説した。

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