■クラシックの繊細な音色や強弱の変化をさらに引き出せるプレーヤーがほしい!
コロナ禍より、私が自分なりのオーディオシステムを組み始めて2年ほどが経つ。当初は真空管アンプやスピーカーを求めやすい中古品からスタートしたが、アナログプレーヤーだけは新品を購入した。ティアックの「TN-350」という機種だ。入門者のお財布にやさしい4万円台だったと思う。現在はすでに生産が終了したモデルだが、本体にMM型フォノイコライザーが内蔵されていて、ティアックの入門機としてはかなり評判が良く人気の製品だった。
しばらく使っているうちに、解像度や響きについて、「もっとグレードアップできないものか」と思い始めた。いまさらだが簡単に自己紹介させていただくと、私の専門領域はクラシック音楽である。大学では音楽学を専攻し、現在はクラシック音楽の普及に従事し、執筆や講座などを行っている。新譜のレビューも執筆するが、近年ではアナログでリリースされる音盤についての依頼も増えている。
講座では、あえて「レコードで聴くこと」をひとつの売りとする名盤鑑賞の講師を務めるようにもなった。そんな流れもあり、アナログのより良い再生環境を作ることは、私にとってマストとなってきた。そもそもクラシック音楽は繊細な音色の変化、幅の広い強弱の変化を受け取ることが、とても重要なジャンルなのだ。
という訳で、別のシステムで聴いた時にはもっと楽しい印象だったレコード、なぜか音割れしてしまうピアノのレコード、直感的に「もっといい音で再生できそうだ」と感じるレコードなどを手に、頭を悩ませ始めた。そこからじわじわと、フォノイコライザーを外づけにしたり、スタビライザーを置いたり、カートリッジを交換したり……という旅路が始まった。“物足りなさ”のような感覚を埋めていきたいという熱意に駆られたのであった。
■プレーヤーはどう選ぶか? 発展性の有無や駆動方式もポイント
そうこうしている間に、アンプやスピーカーは、猛スピードでステップアップを重ねていき、気づくとアナログプレーヤーだけが、やや取り残された感がある。他の機器とは少しバランスの悪い入門機……。いろいろな工夫を経て楽しくは使えているのだが、現状品の5倍も10倍も100倍も値の張るプレーヤーが存在することを思うと、やはり「工夫の先にある世界」も知りたくなる。
そこで私のアドバイザーであるオーディオ機器評論家の井上千岳先生に、そんな私の思いをぶつけてみたところ、買い替え案として5機種をチョイスしてくださった。さまざまなメーカーによるアナログプレーヤーの復活劇が展開されるいま、どのようなポイントで選定すると良いかも教えてくれた。
「ターンテーブルの役割とは『静かに安定して回る』という、シンプルなことです。その基本が何より重要ですし、音を聴いて気に入ったものが一番ですが、買い替えの際には、今後自分がそのプレーヤーとどういうつき合い方をしていきたいかを考えるのも良いでしょう。つまり、『発展性の有無』を軸に据えてみるのです。
カートリッジやターンテーブルシートやフォノケーブルといったアクセサリー類を取り替えることができて、自分好みのプレーヤーへと“発展”させられるかどうか。発展の可能性を持たせるならば、どのような端子がついているのか、アームの設計はどうなっているかなどを、しっかり確認しておかなければなりません。駆動方式(ダイレクトかベルトか)や、価格帯も指標となります。今回は20万円から40万円くらいの中級機で考えてみました」
そうした観点から井上先生が選んだ5機種を、いざ聴き比べ敢行! 比べるにあたっては、私が自室で使用しているのと同じスピーカー、アンプ、ケーブル、フォノイコライザー、MCカートリッジをスタンバイいただき、アナログプレーヤーの持ち味をしっかり体験できる姿勢で臨むこととなった。
レファレンスとして持ち込んだのは、アイスランドの気鋭のピアニスト、オラフソンのアルバム、そしてアントニーニ指揮、イル・ジャルディーノ・アルモニコによる『ハイドンの交響曲第28番』のレコードである。
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