八洲建設(愛知県半田市)は事業所や営業車などの二酸化炭素(CO2)排出量の算定を始めている。さらに踏み込み、工事現場の排出量を収集するために作業日報に機械の稼働時間などを記入し、自動計算する仕組みも導入した。なぜ、脱炭素を推進するのか、環境省脱炭素ビジネス推進室の平尾禎秀室長が同社の水野貴之社長に狙いを聞いた。
水野社長「商売に直結、着手しやすい」
平尾室長 脱炭素に着手するため情報を収集したと聞いているが、どのような情報が有益だったのか。
水野社長 地域で事業活動をする我々も国の方針を知ることが重要と考えており、環境省のホームページを参考にした。当社の規模(従業員67人)でも活用できる補助金や支援事業の情報に触れることで、どこから手を付ければよいのか分かるようになった。
平尾室長 現場ごとの排出量の算定は、業務の負荷になるのでは。協力会社(専門工事業者)の理解が必要と思うが。
水野社長 そんなに手間ではないと思っている。社内で脱炭素経営促進チームを結成し、現場と一緒に取り組む意義を理解し、仕組みをつくってきた。排出量の算定も自分たちで無理なく続けられる方法にした。取り組みやすさがあり、良いスタートを切れたのではないか。
現場での毎朝の朝礼、月1回の安全協議会、協力会社との会合で説明している。測定した排出量を協力会社に見てもらうことも有効だ。削減実績が分かると、やる気が出て対策を継続しやすい。
平尾室長 地域や同業者など周囲からの反応は。
水野社長 脱炭素に取り組む企業は少ない印象があるが、各社とも経営課題として認識している。我々の活動を他社に紹介すると、興味を持ってもらえる。当社の事例でも、広がっていくと地域の役に立てると思っている。
平尾室長 我々としても地域ぐるみで脱炭素を推進する方向性を出していきたい。脱炭素に取り組むことによる事業面での効果は。
水野社長 建築に携わる企業の使命として、まずは我々の本社をZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化にする。自らCO2削減を実践し、光熱費削減による投資回収も検証する。結果を顧客に提示し、ZEBの提案につなげる。
また“脱炭素マーケット”があると思う。顕在化したとは言い切れないが、すべての事業者が脱炭素経営への転換が求められている。スタート時期が異なっても、いずれ事業所や生産活動を見直すため、ZEBの需要が生まれる。我々は建築だけでなく、エネルギーマネジメントにも携わりたい。本社のZEB化の経験が生きるだろう。
事業活動にもプラスとなる、もしくは商売に直結すると脱炭素に着手しやすいと感じている。社会から建物や工事を脱炭素化してほしいという要求が出てくると、応えられる建築業者が必要になる。行政による施主への支援制度もあってほしいと思う。
平尾室長 私たちも学びながら取り組んでいるので、必要なことは言ってほしい。
水野社長 事業活動として推進するとコスト面で不安がある。例えば低燃費の重機を導入すると費用が上乗せされるが、上昇分を誰が負担するかという話になると進まなくなる。やはり社会の理解が課題だ。同業者や協力会社、顧客とはパートナーとして脱炭素に取り組みたい。まず自分たちの活動を排出実質ゼロ化し、その延長線上でパートナーと出会い、ネットワークをつくりたい。脱炭素経営のエコシステムができればコストの問題が解消され、日本全体の経済にも影響を与えるだろう。
平尾室長 脱炭素への取り組みが評価される経済社会システムに早く変えたい。その素地が出ており、この機会を生かしたいと考えている。
気候変動対策、社運を左右
着実な姿勢で積極的に先手
上場企業は気候変動対策が投資家や社会から評価されるようになった。一方、中小企業はコストや労力を費やして脱炭素に取り組むと、どんな利益があるのか。環境省の平尾室長による経営者インタビューで、中小企業のメリットや課題が見えてきた。(編集委員・松木喬)
八洲建設はこれまでも、“脱炭素マーケット”を見据え、CO2排出量の測定や本社のZEB化に取り組んでいた。自らの活動があると、商品・サービスを売る説得力が増す。逆に、いくら脱炭素への貢献を宣伝しても「わが社は何もしていない」では“グリーンウォッシュ(見せかけのエコ活動)”と批判される。
コストについて貴重な提言があった。現在の商取引はコスト、品質、納期が重視される。「社会の理解」(水野社長)によって脱炭素の優先度が高まると、コストアップが許容される可能性がある。それには施主や入居者、取引先を含めた関係者すべてが気候変動対策の価値を認め合う必要がある点だ。
NiKKi Fron(長野市)の春日孝之社長も排出削減が取引先からの評価につながると確信していた。春日社長と水野社長から聞き取りをした環境省の平尾室長は「脱炭素への対応が自社の今後を左右していくという切迫感が伝わってきた」と振り返る。2050年から逆算した社会の変化や自社の立ち位置を分析し、「エネルギー・資源価格の高騰やサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化といった喫緊の課題への対応を含めて、積極的に手を打っている」と語る。
着実な姿勢も印象に残ったという。「知る(理解、啓発)、測る(排出量の算定)、減らす(削減)のステップを踏み、足場を固めながら長期戦に取り組む体制を整えている。外部リソースを活用し、排出量の算定など取り組みのコストを下げているのもうまい」と指摘する。
他にも脱炭素に前向きに取り組む中小企業が増えている。再生可能エネルギーの活用を推進する中小企業が参加する団体「再エネ100宣言 REAction」は参加が300社・団体を超えた。企業の排出削減目標を認定する「サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)イニシアティブ」という国際的な活動がある。30年までに排出を半減する水準が認定条件だ。日本企業は440社以上の目標が認定されており、そのうち中小・中堅企業が280社以上と半分を占める。国土交通省はSBT認定を評価する入札制度を導入した。
多くの中小企業は、気候変動対策が評価される社会になると信じ、先取りして脱炭素経営に転換していた。言い方を変えると、市場の変化に柔軟に対応できる企業だ。実際に脱炭素が評価される市場をどうやってつくるのか、政府や産業界の課題だ。
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