―利回り4%超の配当魅力も狙うはキャピタルゲイン、権利落ち後の参戦でも勝機十分―
9月相場もあっという間に第1週を終えた。8月下旬の強調地合いを引き継ぎ今週も出足は好調だったが、週後半に反動が出る形で日経平均株価は下落に転じ、3万2000円台半ばまで押し戻される格好となった。しかし、どんなに地合いが悪くても輝きを放つ強い株は必ず存在している。
ウォール街で最も有名といってもよい相場格言「セル・イン・メイ(5月に株を売れ)」には続きがあって、その結びは「セントレジャーデーまで戻ってくるな」である。セントレジャーデーとは、英国で行われる最も伝統ある競馬のビッグレースのことを指しているが、これは毎年9月の第2土曜日に行われる。つまり、きょうである。来週以降は「バイ・イン・セプテンバー」といっても過言ではない。満を持して再び買いの好機が巡ってくる、と格言は教えている。
そうしたなか、今が旬といえる輝きを放つ株とは、9月末を控えた配当取りの流れに乗る銘柄だ。これらは時間軸的にキャピタルゲイン(株価の値上がり益)も狙えるという好ポジションにある。今回のトップ特集では、3月期と9月期の決算銘柄(9月末の株主を対象に配当を行う銘柄)で配当利回りが4%(年間ベース)を超える高配当株を対象に、株価の上値追いも期待できる最強銘柄にスポットライトを当てる。
●メジャーSQに絡む水面下の攻防
週末8日の東京株式市場は日経平均が一時450円を超える下げに見舞われるなど波乱の展開となった。メジャーSQ通過後に全体相場はその瞬間を待っていたかのように急降下、下げ一巡後は戻り足をみせる場面もあったが、その後は再び売り直され、日経平均は3万2000円台半ばで低空飛行が続いた。前日の米国ハイテク株安を引き継いだリスク回避の売りとはいえ、思いのほか急勾配の下げで動揺した投資家が多かったかもしれない。
しかし、振り返れば日経平均は8月下旬から9月上旬にかけて怒涛の快進撃をみせていた。特に前週28日以降、今週6日まで8連騰を記録するなど強気一色に染まったが、この間に世界株市場が必ずしもリスクオンモードではなかったことがポイントである。今週半ばまで、欧米株やアジア株が軟調な局面であっても日本株だけ独歩高の様相をみせていたのはなぜか。日経平均が8営業日で1600円強も水準を切り上げたカラクリは、メジャーSQに絡む需給的な攻防に拠るところが大きい。
●8連騰の後の波乱は正常モードへの回帰
市場関係者は「メジャーSQ算出を控えた“買い仕掛け”が機能した可能性が高い」(ネット証券マーケットアナリスト)と指摘する。これまでSQを控えて日経平均3万3000円大台ラインを軸とするコールオプションが積み上がっていたが、戦況不利に陥った売り方が先物のヘッジ買いに走っていたという背景がある。それを見越した、買い仕掛けが入ったことで先物主導のミニ踏み上げ相場の様相を呈した。ちなみに8月最終週(8月28日~9月1日)の海外投資家の売買動向で先物は6300億円弱の大量買い越しだった。
おそらくその一連の仕掛けは7日の前場でミッション完了、日経平均はそこからタガが外れたように引力に逆らえなくなった。そして、SQを通過してこれまでの歪みが一気に解消された。つまり、8日の急落はSQ絡みで無理やり持ち上げられていた指数が、縛りがとれて元の形に戻ったという意味合いが強い。もちろん、今後も中国経済の動向と米国の長期金利の双方を横にらみに、東京市場でも油断のできない相場展開は続くが、株式需給面での切り口ではこの週末の下げが尾を引く可能性は低い。過度に弱気マインドに傾くと逆にチャンスを逃すことになる。
●高配当利回り株に強力な追い風吹く
東証のプライム市場とスタンダード市場のPBR1倍割れ企業に対する改善要請が話題となったが、これに伴いこれまで以上に増配や自社株買いなどに前向きに取り組む企業が多くなった。低PBR是正には株主資本の有効活用が求められ、成長投資や株主還元に資本を投下することが有力な方策となる。また、NISAが来年から新制度としてスタートするが、投資枠の拡大と非課税期間の無期限化によって、個人投資家のニューマネーが流れ込む可能性が高い。この場合、新規参入組が注目するのはインカムゲイン、つまり企業からの配当を重視する傾向が強いことから、これも企業の還元姿勢強化につながっている。
最近の株式市場でバリュー株シフトの動きが顕在化したが、それは高配当利回り銘柄への関心が高まったことが大きな要因として挙げられる。高配当が着目され人気が高まれば、需要と供給のバランスから当該銘柄の株価は上昇するのが摂理である。そのため、株式投資に熟練してくると、配当利回りの高い銘柄をキャピタルゲイン狙いで投資するという手法も有効となる。特にこの時期は、9月末の配当権利を駆け込みで獲得しようという動きが表面化しやすく、高配当利回り株に上昇基調を強める銘柄が相次ぐケースが多くみられる。
●権利落ちまで引っ張らないのが相場巧者
高配当利回りと値上がり益を一緒に獲得できる銘柄であれば、それが最強であるのは言うまでもない。ただし一つ注意しておきたいのは、配当権利落ち日、今月で言えば28日以降に配当分の下落圧力が株価に加わるということである。配当権利を獲得して権利落ち直後に株式も売って値上がり益を確保するというのは、虫が良すぎる話でそう都合よく事は運ばない。最近では、権利落ち後のキャピタルロス(株価下落による損失)が配当分を大きく上回るケースも多い。それは、権利落ち後にドテン売り(買いポジション解消と同時に売りポジションを持つ)に転じる仕掛け的な売買の対象となるためだ。
したがって、配当を取ることにこだわって値上がり益を失うよりは、配当権利を放棄しても十分な利益が確保できるのであれば、権利落ち前に買った株を売却するというのが裏技的に有効な手法となる。もちろんこの場合、当該株が中期的に魅力的な銘柄であれば、権利落ち後の押し目を待って買い直すというのが賢明である。
今回のトップ特集では、9月末に配当を行う企業の中から、年間配当利回りが4%を超える銘柄で業績面でも高成長が期待できる有望株を6銘柄選りすぐった。
●高配当でキャピタルゲインが狙える6銘柄
◎エスケーエレクトロニクス <6677> [東証S]
エスケーエレはフォトマスクの専業メーカーで液晶向けの商品競争力では群を抜いている。業界最先端の技術力を生かし、ポリシリコン液晶や有機ELディスプレーなど高精度のFPD対応フォトマスクの研究開発にも鋭意取り組んでいる。
業績面では第6世代用フォトマスクの売り上げが好調に伸び全体を牽引、23年9月期は売上高が前期比11%増の276億円、営業利益は同21%増の46億円を見込んでいる。なお、売上高は19年9月期実績を上回り過去最高更新となる見込みだ。更に同社は業界初の次世代(第10世代以上)用フォトマスクを量産可能とする体制を確保している点もポイントとなる。
株主還元姿勢も極めて積極的だ。今期の配当は期初計画から大幅に増額し9月期末一括配当で144円(前期実績は64円)とすることを発表しマーケットの注目を浴びた。株価は発表後に急速に水準を切り上げたが、現状でも配当利回りは4.5%を超えている。PERは11.0倍に過ぎず、依然として上値余地は十分で目先3000円台半ばを指向。配当権利落ち後に調整局面があれば再び拾い場に。
◎ディア・ライフ <3245> [東証P]
ディアライフは首都圏を中心に都市型レジデンス(集合住宅)、商業ビル・オフィスビルの開発及び販売を手掛ける不動産デベロッパーで、人材派遣ビジネスにも展開している。不動産開発は都心部ターミナル駅から30分以内のエリアを対象としたハイクオリティーな事業に特化し、高水準の利益採算を確保している。
22年9月期はトップラインが前の期比倍増近い伸びとなる519億500万円、営業利益は同43%増の57億3600万円と好調を極め、いずれも過去最高を更新。23年9月期も増益基調は変わらず、第3四半期(22年10月~23年6月)時点で減収ながら営業利益は前年同期比25%増益と高い伸び率を達成している。通期見通しは非開示だが、年間配当は期末一括配当で38円を計画しており、配当利回りは4.3%台と高い。
株価は25日移動平均線をサポートラインに春先以降一貫した下値切り上げ波動を形成。8月中旬に同移動平均線を下回ったが、その後切り返し再び上に抜けてきた。4ケタ大台乗せを目指す展開が期待される。
◎伯東 <7433> [東証P]
伯東は半導体をはじめ電子デバイスや電子機器を取り扱うエレクトロニクス商社で、特に化合物半導体製造装置分野で優位性を持つ。世界的な電気自動車(EV)シフトの動きも追い風に車載用パワー半導体が好調で同社の収益に貢献している。
ただ、24年3月期業績についてはスマートフォンやパソコンの販売不振による半導体市況低迷や、中国景気減速の影響などが産業機器全般に及び、営業利益は前期比37%減となる80億円を予想している。しかし、株価は既に来期以降の回復を織り込む動きに入っているようだ。25年3月期営業利益は化合物半導体製造装置が牽引役となってV字回復の可能性を内包する。
株式需給面では貸株調達による空売りを呼び込んだ反動もあって、目先急速なリバウンド局面へと移行。7月4日に上場来高値5960円をつけた後に調整を強いられ、8月1日にマドを開けて売り込まれたが、その後5000円近辺のもみ合いを経て再び急浮上した。株主還元に積極的で今期は280円配当を継続、5%台の配当利回りも特筆される。
◎フージャースホールディングス <3284> [東証P]
フージャースは独立系のマンション開発会社で郊外を中心に大規模でハイクオリティーな物件を提供する。主力の分譲マンションは引き渡し戸数が横ばい水準ながら、不動産投資事業で高収益物件の売却が好調に推移し収益を牽引している。
トップラインの拡大が顕著で24年3月期は前期比14%増の900億円と過去最高を更新する見通しだ。増収効果で建築コスト上昇による利益採算の低下をこなし、営業利益も前期比2%増の86億円と増益基調を確保する見込みにある。PERは8倍台で業態を考慮しても割安。今期年間配当は前期比3円増配の55円を計画し、配当利回りは4.9%台と高い。なお、9月中間期末は27円を計画している。
株価は今年に入り一貫した下値切り上げ波動を形成、春先の調整も短期間で終了し13週移動平均線をサポートとする強力な上げ足で年初来高値圏を走っている。最高値は上場時の13年4月につけた1350円90銭(修正後株価)であり、当面はここが目標。配当権利落ち後の調整はあっても再浮上が有望視され、青空圏への飛翔が視野に入る。
◎バンドー化学 <5195> [東証P]
バンドーは動力を各部品に伝えるVベルトの大手メーカーで、特に自動車用で高シェアを誇る。分散技術を発展させたゴムやエラストマーの加工技術などをコアテクノロジーとして、顧客ニーズに対応した商品で需要を開拓している。半導体不足の解消に伴い自動車生産が回復色を強めるなか、同社の受注環境も大きく改善している。
海外売上高比率は6割弱だが、世界十数カ国に生産・販売拠点を設け、グローバル展開に磨きをかけている。26年度に売上高1200億円、コア営業利益120億円、ROE12%を数値目標とした中期計画を推進している。
業績も好調で、原料価格の高騰を製品価格の引き上げや販売数量の拡大で吸収し、23年3月期は売上高が前の期比11%増と2ケタ伸長、営業利益は3倍増益と急拡大したが、24年3月期も増収増益を見込む。売上高は前期比1%増の1050億円、営業利益は同5%増の87億円を予想するが、同社の業績見通しは保守的な傾向があり、上振れの可能性も十分だ。株主還元姿勢も評価され今期は大幅増配の年68円を計画、配当利回りは4.2%台で自社株買いも視野に入れる。株価は2000円を目指す動きに。
◎アールビバン <7523> [東証S]
アールビバンは現代版画を催事などで販売するアート事業のほか、ホットヨガやファイナンス事業なども展開している。版画は独自の総合プロデュースにより、作家の発掘・育成から、契約、販売、アフターサービスまで一気通貫で手掛けており、業界他社とは一線を画す。今後はリオープン環境のなかで大型催事などの開催を増やし、販売機会の拡大に努めていく構えだ。ホットヨガも脱コロナを背景に徐々に回復軌道に乗ることが期待される。
業績は24年3月期第1四半期(23年4~6月)に営業利益が前年同期比93%増の8億5300万円を達成、対通期進捗率は38%に達しており、通期見通しである22億5000万円は上振れの可能性が意識される。
今期年間配当は記念配の上乗せで前期比倍増となる60円を計画、5%近い配当利回りは魅力となる。株価は25日移動平均線をサポートラインに上値指向の強い展開で、PER11.0倍、PBR0.8倍強と株価指標面でも割安感が強い。
株探ニュース
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