「妹はとても家族思いで、ぬいぐるみが好きな、普通の10代の女の子でした」
その妹がハマスに連れ去られ、ぐったりと横たわる姿をSNSで見つけたのは10月7日。
イスラエル軍は19日、ガザ地区内にとらわれている人質は203人にのぼると発表しました。
地上侵攻が行われたら人質はどうなってしまうのか。家族は新たな手がかりを得ることができず、焦りを募らせています。
(ヨーロッパ総局記者 田村銀河)
動画に映っていたのは…
「初めて見たときは信じたくありませんでしたが、それは間違いなく妹でした」
こう話すのは、エルサレムで両親と妹のカリーナさんの家族4人で暮らしていたサーシャ・アリエブさんです。
ハマスによる大規模な奇襲攻撃が行われた10月7日。
SNS上にあがった大量の動画のなかに、サーシャさんは、車の座席にぐったりと横たわる妹のカリーナさんの姿を見つけたのです。
兵役に就いていた19歳
男女を問わず徴兵制がとられているイスラエル。
19歳のカリーナさんも去年10月、高校を卒業すると軍に入隊しました。
5歳年上のサーシャさんは、小さい頃からずっと妹のカリーナさんと2人、1つの部屋で育ってきました。
カリーナさんは、サーシャさんの誕生日に毎年、ちょっと変わった、かわいらしいぬいぐるみをプレゼントしてくれていたと言います。
優しい性格で、家で家族と過ごす時間を大切にしていたというカリーナさん。
サーシャさんは、カリーナさんが入隊するときの様子をこう話しました。
サーシャさん
「カリーナはとても家庭的な性格なので、軍隊に入るのはとても不安だったと思います。
ただ、妹は責任感が強く、軍に入ることがこの国にとってどんなに大事なことか理解し、その義務を果たしていました」
入隊して3か月がたったことし1月。
カリーナさんが最初の赴任先として向かったのが、ガザ地区との境界沿いの基地でした。
不安を紛らわすかのように2週間に一度は実家に帰って家族との時間を過ごし、兵役が終わったら何をするかなど、話していたといいます。
サーシャさん
「カリーナは自宅に戻ると『あれが食べたい、これが食べたい』と言って、母の手料理をリクエストしていました。私も一緒にレストランに出かけたり、映画を見に行ったりしました。父はカリーナが戻ってくるたびに有休をとっていました。
彼女はメイクや美容が大好きな普通の10代の女の子で、基地での任務に戻るときはとても戻りたくなさそうにしていました」
憔悴していく家族…
カリーナさんの行方が分からなくなって以降、サーシャさんと両親は、人質に関する新たな情報が出ていないか、自宅でずっとテレビをつけて見ています。
父親のアルベルトさんは、何か娘の手がかりはないかと、ガザ地区について発信しているアラビア語のSNSなどを四六時中、見ています。
母親のイラさんは取材の間、何もしゃべらず、ハンカチを手に涙を流し続けていました。
アルベルトさんもイラさんも夜中に何度も目が覚め、体の震えが止まらないといいます。
「おなかはすいていませんか?いろんな人から食事を差し入れてもらうのですが、食欲がないんです」
取材中、父親のアルベルトさんがふと思いついたように、そう言いました。
見るとテーブルの上にはケータリングの食事が山積みになっていました。
親戚などが心配して差し入れてくれたものですが、今は何も喉を通らず食べられないので、私たちに持って帰ってほしいというのです。
サーシャさん
「私は泣かないようにしています。時々、心が折れそうになりますが、カリーナのために強くなろうとしています。
両親も打ちひしがれ、ずっと泣いていました。
でも、私が泣かないのを見て、私のため、そしてカリーナのために強くなろうと頑張っています」
地上侵攻の準備進む中で…
ガザ地区への地上侵攻に向けた準備を進めるイスラエル軍。
そうした動きをどう受け止めているのか尋ねると、父親のアルベルトさんは言葉を絞り出すように、こう答えました。
父親のアルベルトさん
「地上侵攻がいいことなのか悪いことなのか、私にはわかりません。私の望みは、カリーナが私たちのところに戻ってくること、それだけです。
イスラム教徒でもキリスト教徒でもユダヤ教徒でも日本の人たちでも、誰でもいいので、カリーナが家に帰ってこられるように協力してほしい」
サーシャさんは、イスラエル政府の対応への不満を明かしてくれました。
サーシャさん
「カリーナがいた基地はリスクもあったと思いますが、イスラエル軍、そして政府が守ってくれると思っていました。いまは裏切られた気持ちです。
ガザ地区を空爆し封鎖を進めるだけでなく、市民のことを考えるべきで、まずは人質の解放のための交渉を始めるべきです。政府は作戦のことばかり話し、人質のことを忘れています」
広がる人質解放求める声 地上侵攻は?
サーシャさんたち以外の人質の家族も、イスラエル政府に対して情報公開や解放のための交渉を呼びかけ、抗議活動も行っています。
外国人の人質の家族は、各国政府に解放のための交渉を訴えています。
こうした中、ハマスは16日、揺さぶりをかけるかのように人質となっている女性の映像を公開。
翌日、女性の母親が会見を開き「イスラエル政府はすべての手段を尽くし、人質全員を取り戻してくれると信じています」と、改めて人質の解放を訴えました。
一方で、イスラエルの安全保障に詳しい専門家は、人質の存在がイスラエル側に地上侵攻をためらわせることは考えにくいと分析します。
インバール所長
「軍事作戦の観点からは人質は二の次にすぎない。人質の救出に小規模な部隊が動くかもしれないが、主な目標はハマスの軍事能力の消滅だ。
中東では、弱いと見なされると侵略を招く。ハマスがイスラエルをいま攻撃した理由のひとつは、われわれの内政の混乱にある。ハマスがイスラエルを弱いと評価し、だからこそ攻撃してきたのだ。
抑止力を回復させることが、イスラエルが生き残るための鍵だ」
イスラエル軍がこれまでにガザ地区でハマスにとらわれていることが確認されたとする人質は203人。
行方がわからないカリーナさんの部屋のベッドには、親友が持ってきた誕生日プレゼントやメッセージが飾られています。
サーシャさん
「もともとカリーナは10日に家に戻ってくる予定だったので、その前に、ハマスによる攻撃が起きる前に、カリーナの友達がやってきて部屋を飾っていきました。
今もそのままにしてあります。さわることはできません。
私たちはカリーナが必ず戻ってくると信じています」
(10月13日 国際報道2023で放送)
からの記事と詳細 ( 「家族を返して」地上侵攻準備進めるイスラエル 人質家族は | NHK - nhk.or.jp )
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