わが家の朝はいつも、息子と妻の格闘から始まる。 といっても、本格的な取っ組み合いではなく、母と息子ではよくありがちな「早く起きなさい」「いつまで寝てんの」「遅刻するよ」の妻のかけ声とともに「今起きるよ」「うるさいなあ」「間に合うよ」とつぶやきながら返答をする息子。
僕のような昭和世代のように「うるせーな!!」と大声で言い返したりはしないようだ…。
まあどちらにしても、朝は決まってこんな感じ。その中で娘は1人マイペースで登校時間の7時50分にはきっちり家を出ていく。気がついたら自分で朝食を準備している時があるから笑えてくる。兄妹でこんなにも違うんだなあと、血はつながっていないがわが子ながらとても興味を持って観察してしまう。
最近は娘も僕を家族と認めてくれた方で「アビさんは家族じゃない」の痛烈な一言は無くなった。あの一言は世の中をひっくり返せるくらいの破壊力がある(笑い)。最近はパパ(実父)のことをあまり口にしないし、特に会いたいとも言わない。これは僕に気を使っているのか、それとも本能的に今、一緒にいる僕に対して少しでも父親という感情が出てきているのか…全くわからない。
ただもし、気を使わせているのであれば、これは放っておけない。娘を知らず知らず傷つけてしまうことだけは絶対に避けなければいけない。また2人で散歩に出かけた時にでもパパに会いたいか?と聞いてみよう。とはいえ、一緒にいる時間を重ねれば重ねるほど愛情は深くなり、きっと「パパに会いたい」の一言に少なからず落ち込みそうだ。わかっているんだ。世の中にパパは1人で、代わりができるものじゃないということくらい。そんな簡単な話ではない。
どれだけ頭で整理できていても、息子と娘を愛する気持ちは変わらない。だからやはり少なからず苦しい。だからと言って、会わせなくするとか、コンタクトを取らせないとかは絶対にしない。娘が会いたい時に会えて、話したい時に話せる環境を作ることは大事。ただ、最近先方に子どもができたみたいなので、それがまた何だか複雑な気持ちにさせる。どうやって説明していいやら。
こういう時、大人は子どもに隠し事をしがちなので、余計にタイミングを失う。息子とはLINEで連絡を取り合ってるので、食事の時に「僕、弟できたよ」といきなり言われてビビった。俺らの子どもできたっけ!?と思ってしまった(笑い)。そうしたら再婚した実父にできたということだった。
こうして連絡を取り合っている息子はいいのだけれど、娘にはどう伝えたらいいのだろうか。毎日が葛藤で毎日が苦悩。でも子どもたちとの日々が幸せでもある。
最近改めて思う。親は子どもに無性の愛で接することができる。要するにそれは無意識で愛を感じ合える。しかし、夫婦はそうはいかない。無性の愛は存在せず、意識的に相手を思いやり、大切にしてあげなければいけない。言葉ひとつひとつを丁寧にしないと本当の想いは伝わらない。
僕には最近それが足りていない。その原因を自分なりに探してみた。もちろんこれが正解ではないのだけど、僕にとっては家族の中で無性の愛が存在しない。これは決してネガティブなことではなく、ステップファミリーの中ではあるあるだと思う。それは決して子どもを愛していないわけではない。
ただ、自分の子どもではないので無性の愛という定義には当てはまらないという意味。そうなると僕の中にある愛を3等分しなければ成立しないこともある。妻とお付き合いをしている時は、基本妻だけを見ていればよかったし、そこにわかりやすい愛が存在した。しかし、今は子どもたちもいる中で、その愛情は分散される。これはわが子を持っている人にはわからない感覚だと思う。そんな葛藤をどこかで毎日少しずつ感じているのがステップファミリーの現実だと思う。
とはいえ、僕ら家族はかなり幸せな方だと思ってはいる。子どもたちは北海道から出てきてまだ1年たっていないが、正直北海道に居続けていたらどうなっていたのかと想像すると、決して明るい未来だけではなかったはずだ。
特に息子は受験生でもあるが、不登校でもあった。1年間全く学校に行かないなんてすごい意志の持ち主だと感心したが、当事者になればそんなことも言っていられない。今は学校に行くし、受験に向けて必死に頑張っている。たまに疲れて学校に行きたくない朝があるみたいだが、そういう時は無理して行かせない。学校に行くことが正義でもなければ、行かないことが悪でもない。
ただし、わがままだったり、世の中をなめ始めてしまった時は思いっきりカツを入れるようにしている。嫌われようが何されようが、僕にも譲れないものがある。幸い、今のところ僕の方が強いので、リスペクトされている。これは男と男が感覚で感じる強さのことだ。相対すれば男同士なんて相手の強さがわかるもんだ。
僕は今でも父親が怖い。それは恐怖ではなく、人間としての器というか男としての強さの違いだと思う。だから死ぬまで一生リスペクトだ。そんな僕らステップファミリーは息子の受験と向き合いながら、それぞれをリスペクトして今日も明日も思いっきり生きている。
妻には感謝しかない。ここまで頑張って育ててくれたこと、そして僕が試合期に入ればいろいろな節制が出てくる。料理だって子どもたち用と僕のを分けて作ってくれる。だから「ありがとう」しかない。とは言いながらも、やはり他人がひとつ屋根の下で暮らすのだから衝突もあるし、意見の食い違いもある。
そんなことも全て受け入れながら、支え合ってこのステップファミリーという形を「自分の家族」という世界にまでちゃんと育んでいきたいと思う。いろいろな家族の形があっていい。それを他人がとやかくいうものではない。このコラムが少しでもステップファミリーで悩んでいる人たちの参考になればうれしい。
妻よ、ありがとう。
息子よ、ありがとう。
娘よ、ありがとう。
今日も頑張ろう。
◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算2勝1分け2敗。175センチ
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