この年、「アドヴィニ」というフランスと南アフリカに多数のワイナリーをもつグループ会社に加わり、ラベルが一新された。もっともワイン造りそのものは大きく変わらない。
醸造の指揮をとるのは、入社してちょうど20年目を迎えたベテラン、ディミトリ・バザスさんである。
長い歴史をもつワイナリーだけに、逸話には事欠かない。あの微生物学の神様、ルイ・パストゥールが酵母の研究に使ったのがこのワイナリー。また醸造所はパリのエッフェル塔で有名なギュスターヴ・エッフェルの設計によるもので、2010年、歴史的建造物に認定されている。
その一方、新しいことはブドウ栽培だ。メゾンは合計21ヘクタールのブドウ畑を25のアペラシオンに所有している。そのうちの14ヘクタールはコート・ド・ボーヌ地区のペルナン・ヴェルジュレス村にある。その自社畑の一部において、2007年からブドウ栽培にビオディナミ農法を採用。2010年にその認証を取得している。
ビオディナミとはオーストリアの哲学者、ルドルフ・シュタイナーの哲学を元にした農法。月と星座の位置関係を元に農作業を行い、自然界の物質から作られた、プレパラシオンと呼ばれる調合材を用いて大地を活性化させる。もちろん、殺虫剤や除草剤など化学的な農薬を使ってはいけない。カビ系の病気への対処法として、銅(=ボルドー液)と硫黄のみが許されている。
メゾンが所有するコルトン・シャルルマーニュの畑に行くと、畝間は緑の草が生え放しの状態。収穫後はしばらく草を自由に生やし、雨で土が流亡するのを食いとめ、春にはこれをすき込む。土中の窒素を増やし、空気を送り込むことで、土の中に棲息する微生物の量が増えるという。有機的な養分はそのままだとブドウの根が吸収できない。微生物が無機質に分解することで、初めて吸収可能になるのだ。
ボーヌのメゾンに戻り、テイスティング。赤ワインの醸造は、ブドウを除梗後、10度の温度で5〜6日間の低温浸漬。軽めにピジャージュ(果帽の櫂突き)をして抽出し、最後にルモンタージュ(液循環)。発酵の後、オークの小樽で熟成させる。新樽率と樽熟成期間に多少の違いはあっても、すべてのアペラシオンでほぼ共通とディミトリさんはいう。
「つまり、あなたがサヴィニー・レ・ボーヌとヴォルネイに違いを感じたなら、それはテロワールの違いによるものです」とディミトリさん。
オスピス・ド・ボーヌの真向かいにブティックが出来た。テイスティングコースも用意されているので、ぜひ自分の鼻と舌で、テロワールの違いを確認して欲しい。
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May 11, 2020 at 05:05PM
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