1991年に『ビフォア・ラン』でデビューして以降、数々の小説を発表してきた重松清さん。30年になろうとする作家人生のなかでも、“家族”は、重松さんが一貫して見つめてきたテーマです。
7月17日(金)ついに公開を迎えた映画『ステップ』は、そんな重松さんの小説を、かねてより愛読していたという飯塚健監督が映画化したもの。
結婚3年目、30歳の若さで妻に先立たれた主人公・健一と、幼い娘・美紀の10年間。その姿を丹念に描く映画づくりの裏側と、監督にとっての「家族」についてお話を伺いました。
飯塚健(いいづか けん)
1979年、群馬県出身。2003年、石垣島を舞台にした群像劇「Summer Nude」でデビュー。若干22歳で監督をつとめたことが大きな反響を読んだ。以降、「訪郷物語」(06)、「彩恋 SAI-REN」(07)など青春の切なさを生き生きと描く映像作家として頭角を現す。また、「FUNNY BUNNY」をはじめとする演劇作品、ASIAN KUNG-FU GENERATIONSやOKAMOTO’S、降谷建志らのMV、小説、絵本の出版と、活動の幅を広げる。代表作に「荒川アンダー ザ プリッジ」シリーズ(11 ドラマ、12 映画)、「風俗行ったら人生変わったwww」(13)、「大人ドロップ」(14)、「REPLAY&DESTROY」(15 ドラマ)、「笑う招き猫」シリーズ(17 ドラマ、映画)、「榎田賀易堂」(18)、「虹色デイズ」(18)など多数。2019年12月にはブルーノート・ジャパンとの前代未聞のプロジェクト、会場一体型コント劇「コントと音楽 vol.1 / 振り返れない」をモーション・ブルーヨコハマにて開催。現在は、映画「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」(主演・田中圭)の公開が控えている。
―― とても素直な気持ちで拝見しました。『ステップ』は、ともすると“泣かせようとする映画”になってしまう可能性もあったと思うんですが、あくまで誠実で、丁寧なのが印象的でした。
あらすじだけを捉えたら、言ってしまえば王道的な話かもしれません。すごく小さな、隣の家で起きていてもおかしくない、特別なことは何も起きない物語ですよね。
「序破急」や「起承転結」といわれるように、脚本にはさまざまなパターン・形式がありますが、『ステップ』では「章立てにする」ということ以外は最初からあまり考えませんでした。
―― その構想に至った経緯も伺いたいです。飯塚監督は、もともと重松清さんの小説のファンだったんですよね。
初めて読んだのは『ビタミンF』だったと思います。それから、新刊だけじゃなく過去作に遡って読んだりもして。『ナイフ』『定年ゴジラ』、……『疾走』はかなり衝撃的でしたね。
『ステップ』は、単行本が出てすぐに読みました。書店で平積みになっていたのを買った記憶があります。
- ステップ
- 著者:重松清
- 発売日:2012年03月
- 発行所:中央公論新社
- 価格:692円(税込)
- ISBNコード:9784122056145
――『ステップ』のどんなところに惹かれましたか?
まず、単純なシングルファザー奮闘記ではなかったところです。血の繋がっていない人たち、特に義父との関係を描いている点が新鮮でしたね。
義理の息子を思って「自分たちのことは気にせず再婚していい」と口では言っても、実際に再婚したらどうしても関わりの形は少しずつ変わっていくので、そもそも関われなくなるのではないか?という不安も生まれる。そういうところまで丁寧に描かれているんです。
それから、大切な人を亡くした寂しさや悲しさが「消えないもの」として描かれていたのも印象的でした。思い出そうとしなくても、寂しさがふっと沸き起こってしまったりする場面って、きっと死ぬまでずっとあるんです。
ただの理想論でなく、そういうリアルに真摯に向き合って描こうとなさっている。小説を一気読みしたのも、号泣したのもその時が初めてでした。
映画化にあたっては「脚本が何より大切だ」と思っていたので、企画書よりも先に、映画1本分の初稿をまるまる書き上げて重松さんに読んでいただきました。奈々恵さんとのエピソードが原作からけっこう変わっているので少し不安でしたが、快諾してくださったのは、僕の意図を汲んでくださったんだと思います。「荒川アンダー ザ ブリッジ」をお好きだったのは予想外でしたが(笑)。
―― その初稿の時点から、すでに“定番パターンのストーリー展開”ではなかったということですね。
そうです。健一の声がどこへも着地しない、会話のない保育園時代から、家の中に会話が生まれて、父と娘が家族として少しずつ前へ進んでいく。その淡々とした流れを「淡々としているから映画的じゃない」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、『ステップ』はそんな“映画的なお決まり”に逃げない映画であるべきだと思いました。
劇中に、美紀が「パパ、干すよ」と健一に声をかけて、2人で洗濯物を干すシーンがあります。ごく普通の日常的なシーンですけど、この映画では、この場面で多くの人が「よかった」と思ってくれるはず。特別なしかけはないし、ダイナミックなことなんて何も起きていないけれど、子どもが大きくなって、しゃべれるようになって、親子で会話するようになって、だんだん会話が増えていく。その過程を丹念に撮っていけば、いわゆる映画的な劇的さにも負けないはずだと思ったんです。
成長していくことそのもの、人生そのものがこれほど劇的だということは、僕も、自分が子どもを育てるまで知りませんでした。真っ向勝負の映画づくりになったぶん、俳優部やスタッフは、精神的にかなりしんどかったと思います。
―― 山田孝之さんは、最近エキセントリックな役柄も多かったなか、今回はご自身と同じ30代の、等身大の父親を演じられました。言葉で心情が描写されている小説の一方、映画では健一の言葉少ないキャラクターが引き立っていましたね。
山田くんとは過去に数作ご一緒していますが、今回の健一は「大切な人を失った」という事実をずっと抱えて向き合っていく役なので、相当大変だったと思います。
演出するにあたって特に大切にしたのは、描かれていない1年半のことです。本編は、妻を亡くしてから1年半後、健一がカレンダーに「再出発!!」と書き込むところから始まります。でも決意を表したところで、いきなり再出発できるわけはない。本当に2人が再出発できたのは、それよりも後になってからです。
でも2人での生活は、カレンダーに書き込むよりも前、妻が亡くなった時すでに始まっていたわけですよね。そこまでの描かれていない部分をどう捉えるかを、山田くんに限らず、俳優部全員、スタッフも、僕も、それぞれの立場から作っていきました。
美紀役の3人も、特に(6~8歳の美紀を演じた)白鳥玉季さん、(9~12歳を演じた)田中理念さんに対しては、リハーサルの時点から子役として扱っていません。その年の子どもの心情は、僕らなんかよりはるかに知っているはず。だから、彼女たちにあわせて演出を変えるということもしませんでした。むしろ「こういう時、同級生はなんて言うと思う?」とあれこれ話しながら撮っていきました。
先ほど話した洗濯物を干すシーンも、その前後の“時間の流し方”から考えて撮っていたので、(演じるのが)難しいかもしれないからとカットを割ることなく、ワンカットで撮りました。
実際大変で、結局15回以上リテイクすることになりましたが、そこで諦めなかったから彼女たちから返ってきたものがあったと思います。
―― ここからは、飯塚監督ご自身について伺います。飯塚監督も幼い頃にお母さんを亡くされて、お父さんに男手一つで育てられたんですよね。そして今は一児の父でもあります。
子どもの頃は不具合のほうに敏感で、いろんなことを不満に思っていましたね。土曜日のお弁当の日が嫌だったし、母の日が嫌いな美紀の気持ちもよくわかります。僕は9歳の時に母が亡くなっているので、美紀とまったく同じではないですけどね。そういう面は、全編にわたっていやがおうにも投影されていると思います。
父については、脚本を書いたり映画を撮ったりしながら「どんな気持ちだったんだろう」と想像していました。一番考えていたのは「亡くなって今はいない相手への愛情を、父はどうしていたんだろう」ということです。触れ合ったり言葉を交わしたりすることができないわけで、その距離感をどうやって埋めていたんだろうと。今もわからないですけれど、そうやって考えたことを、健一と美紀の家の中に何を飾るか、どんなふうに家を変化させていくかに落とし込んでいきました。
――『ステップ』を観た後、「家族」って何だろうと考えていました。一緒に住んでいる人を指すなら、昔に比べて現代は「家族」の単位が小さくなっていますよね。それから、たとえば結婚しているとして、誰かに家族を紹介する時、果たして相手方の家族も「私の家族です」と紹介するだろうか?……と。インタビューの最後に、“人と人の繋がり”について、ご自身が今思っていらっしゃることをお聞きしたいです。
僕自身も、人間関係が希薄なほうなんですよね。9歳の頃から育ててくれた父も、すでに亡くなっています。結婚してそろそろ10年、子どもはまもなく5歳になりますが、結婚して、子どもができて、家庭を持って、そうして初めて「家族」ってどういうことなのかがわかってきたという感じです。今もまだ理解している途中だと思います。
妻のお父さん・お母さんについて思い出すのは、焼肉屋のことです。
よく行っていた焼肉屋の入り口が、階段をのぼった2階にあって、その時にね、お母さんが絶対に僕の手を握るんですよ。
その時「こういうのって、すごくいいもんだなあ」としみじみ思ったんです。それから、妻の両親とご飯を食べることと、その焼肉屋へ行くことは、僕にとってほぼイコールになりました。僕からも「そろそろ焼肉食べに行きませんか?」と連絡するようになったりして。妻の両親も亡くなってしまったんですが、お二人にも家族とは何かを教えていただきました。
小さな出来事ですけど、そういうエピソードが一つあれば家族だと思える。血の繋がりじゃなくて、その人という“命”に関わっていること、触れ合っていることが、繋がっているという実感を生む。
「家族」ってそういうものなんじゃないかなと、『ステップ』を通して感じています。
映画『ステップ』
山田孝之、田中里念、白鳥玉季、中野翠咲、伊藤沙莉、川栄李奈、広末涼子、余貴美子、國村隼
原作:重松 清「ステップ」(中公文庫)
監督・脚本・編集:飯塚健(『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』『笑う招き猫』『虹色デイズ』)
主題歌:秦基博「在る」(AUGUSTA RECORDS/UNIVERSAL MUSIC LLC)
製作プロダクション:ダブ
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©2020映画『ステップ』製作委員会
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