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Sunday, July 19, 2020

サービス化に必要な「顧客理解のステップ」とその方法論 - @IT MONOist

 製造業を取り巻く環境で不確実性が増す中、持続可能性を確保するために「モノ」としてのビジネスに加え、サービスビジネスを組み合わせることが重要になってきている。本連載では、製造業におけるサービス化を実現するためのポイントとして、顧客起点でデザインするサービスイノベーションの手法や事例、勘所について全4回の予定でお伝えしている。

 第1回では、製造業を取り巻く環境の変化とサービスイノベーションの重要性について紹介したが、第2回目の今回は、顧客理解のステップについてその有効性と方法論、調査手法について解説する(図1)。

photo 図1 連載第2回で取り上げる対象領域(クリックで拡大)出典:イノベーション・ラボラトリ

深い顧客理解は、競争優位性の源泉

 一般論ではあるが、モノやサービスのアイデアは、課題と解決策のコンビネーションによって構成されている。多くの製造業は見えている課題に対する解決策をさまざまな手法で示すことに力を入れてきたといえる。その製品を顧客が使う理由(=課題)ではなく、使うことは前提で、その解決策の品質をいかに向上させるか、いかにコストを下げることができるかということが、競争優位性を高めることに確かに直結してきた。「競争優位性の確保に有効なのは課題把握なのか、解決策の品質向上なのか」という問いに対して、モノビジネスを行っている製造業においては、その回答は「解決策の品質向上」だったといえる。

photo 図2 モノ・サービスビジネスの構成要素と、競争優位性の高め方の定石(クリックで拡大)出典:イノベーション・ラボラトリ

 一方で、サービスビジネスを考えると解決策だけでは差別化につながらない場合が多く、そのため「解決策の品質」を考えるだけではなく、むしろ課題設定の観点の独自性や理解の深さが競争優位の要素となる場合が多い。サービスビジネスでは、解決策の改善スピードを高速化することが比較的容易であるため、解決策の中での競争では競合社間で品質差がすぐ埋まる点がある。その点から、すぐ差が埋まりがちな解決策ではなく、むしろ顧客本人も気付かないような課題の鋭さや深さで勝負することが有効である場合が多い。つまり、サービス分野での差別化要素は、解決策の提供品質ではなく、顧客に対する鋭く深い課題把握にあるといえるのだ。

 これらの事例として、「メルカリ」と「LINE」の例を挙げたい。オークションサイト/アプリとしては後発ともいえる「メルカリ」は、今では市場の草分け的存在である「ヤフオク」をしのぐユーザー数を抱えるに至った。また、SNSにおいても、LINEは後発であるにもかかわらず、国内においては一気にシェアを獲得し、特に若年層におけるSNSのデファクトスタンダードとなった。これら2つのサービスが焦点を当てている顧客の課題(=ニーズ)について考察を行ったものが、図3である。

photo 図3 「メルカリ」と「LINE」が捉えているニーズの分析結果(クリックで拡大)出典:イノベーション・ラボラトリ

 メルカリが行った調査「『フリマアプリ利用者と非利用者の消費行動』に関する意識調査」(※1)では「フリマアプリ利用者の半数以上が『売ることを前提に新品を購入している』」という調査結果が出ている。この結果は「購入しても売却できる」ことが購買時の意思決定を後押ししていることを示唆している。これまでのオークションサイトが想定していた「安く手に入る」とは別種の購買動機をメルカリが把握し、それに応える仕組みを作ったことが顧客を引き付けているといえる。

(※1)メルカリ・プレスリリース「フリマアプリ利用者と非利用者の消費行動」に関する意識調査

 筆者もユーザーの一人として売却と購入双方の体験をしてみたが、「メルカリ」がサービス体験で焦点を当てているのは「安く手に入れたい」という購入側の動機ではなく「目の前の不要なものをなくしたい」という売却側の動機にある。具体的には、売却時のユーザー体験が他社サービスと比較して圧倒的に容易であり、売却することが起点となってポイントを獲得し、そのポイントで次は購買行為へと誘うという設計になっている。その点で、先行サービスであった、「ヤフオク」の黎明(れいめい)期からのユーザーである筆者にとっては、両社はサービス設計のスタートラインが、売却側と購買側で真逆であると感じる。

 例えば、社内でサービスアイデア創出の際に、一見すると似たような先行事例があったため、検討をストップすることはよくあることだ。しかしながら、先述した「メルカリ」と「ヤフオク」の例のように、着目する課題の性質によって解決策の作り込みでは違いが生じる。そして、それが長期的には事業の成否を決めることも忘れてはならない。自分たちが考え出したサービスアイデアよりも、海外のベンチャー企業、超大企業が先行している場合でも、その前提となる課題についてじっくり考察してみることで新たな切り口が見つかるかもしれない。

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