確定申告は、個人事業主が主に行うものだが、会社員でも必要になるケースがある。2019年以降はスマートフォンからでも申告できるようになり、手軽に手続きができるようになった。一方、確定申告を初めて行う人の場合、何から手をつければよいかわからないこともあるだろう。まずは確定申告の基礎知識を押さえておこう。
確定申告とは何か
「確定申告」とは、前年の1月1日から12月31日までの1年間で発生したすべての売上から経費を差し引いた所得と、その所得にかかる所得税を計算し、税務署に申告する手続きを指す。主に個人事業主が行うものだが、会社員でも確定申告をしなければならないケースはある。納税は国民の義務であるため、一定額以上の収入がある場合は確定申告をしなければならない。
申告期間は概ね2月16日から3月15日までの間で、該当日が土曜日・日曜日・国民の祝日・休日の場合は翌日に移行する。また、2020年(2019年/令和元年分)、2021年(2020年/令和2年分)の確定申告は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、期限がおよそ1カ月間、延長された。
スマホで確定申告が可能に
従来、確定申告は税務署に赴いて必要書類を提出しなければならず、期間中は窓口が混雑し、書類の提出に予想外の時間がかかることもあった。
2004年からは国税電子申告・納税システム(e-Tax)サービスがスタートし、オンライン上で24時間いつでも確定申告ができるようになった。2019年以降は、パソコンやスマートフォンからマイナンバーカードを使っての書類の提出が可能になり、より便利に確定申告ができるようになった。
年末調整との違い
確定申告と混同しやすいものに「年末調整」がある。年末調整は、主に会社員や公務員などの給与所得者に関係するものだ。
1年間の所得税額を一括で計算し、納税する個人事業主と異なり、給与所得者は毎月の給料から一定額の所得税が天引きされている。しかし、保険の加入に伴う控除の適用や、昇給・賞与額の変動があれば、本来納めるべき所得税額との間に差額が生じる。年間の給与額が確定する12月末にその差額を算出し、所得税の過払い分を返金してもらったり、不足分を納税したりする手続きを年末調整という。
確定申告は個人事業主だけの制度ではない
先ほど述べたように、確定申告は主に個人事業主が行うものだ。飲食店や小売店を個人で営む自営業の方やフリーランスとして活動している方の場合、基本的には確定申告を行わなければならない。
一方、会社員は確定申告をする必要がないものの、以下に該当する場合は確定申告を行う必要がある。
・給与収入が2,000万円を超える場合
・2カ所以上から給与を受け取っている場合
・副業の所得合計が20万円を超える場合
・医療費控除を受ける場合
・給与収入での年末調整ができなかった場合
・ふるさと納税の納付先自治体が6カ所以上ある場合
副業の所得は、株式の配当などの配当所得、土地・マンション・アパートを賃貸することによって生じる不動産所得、不動産を売却したことによる譲渡所得などが該当する。最近は動画配信やアフィリエイト、フリマアプリへの出品などで所得を得るケースもあるだろう。医療費は年間10万円を超えると医療費控除の対象になる。また、年の途中で退職するなどして年末調整ができなかった場合も確定申告の対象になるため注意しよう。
その他、以下に該当する人も確定申告を行わなければならない。
・公的年金の年間受給額が400万円を超える場合
・年金以外に20万円以上の所得がある場合
・不動産所得の合計額から基礎控除(最大48万円)を引いてなお残額がある場合
・株式やFXなどの譲渡や配当により、基礎控除となる48万円以上の利益を得た場合
・退職所得があり、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合
・一時所得があった場合
公的年金等の収入が400万円を超える場合や、400万円を超えなくても他に20万円以上の所得があれば確定申告をしなければならない。
不動産収入で生計を立てている方は、不動産収入から必要経費を差し引いた「不動産所得」の額が基礎控除額を上回った場合に確定申告が必要となる。
退職金を受け取った際は、通常であれば退職した企業に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しており、正確な税額が計算され、差し引かれているため確定申告をする必要はない。しかしこの申告書を提出していない場合は、改めて確定申告をする必要がある。
一時所得は公営ギャンブルの払戻金や懸賞で得た賞金、法人から贈与された金品などが該当し、その一時所得については「総収入金額-収入を得るための必要経費-特別控除額(最高50万円)」で算出された所得の2分の1が課税対象となる。
確定申告が必要ない人とは
上記それぞれの条件に当てはまらない人は、確定申告をする必要がない。つまり、給与所得が1カ所から2,000万円未満で、会社での年末調整が完了している会社員や、2カ所以上からの給与所得を得ている会社員であっても、主たる給与所得についての年末調整が完了しており、副業での収入金額合計が20万円以下であれば、確定申告は不要となる。
公的年金の受給者は原則として確定申告が必要だが、公的年金等の収入が400万円を超えず、その全額が源泉徴収の対象になる等、一定の要件を満たす場合は「確定申告不要制度」の対象となり、申告する必要はない。
また、個人事業主の場合、年間の所得が48万円以下であれば確定申告は不要となる。所得が赤字である場合も不要だが、確定申告をすることで過払いの税金が還付される可能性があるため、申告自体はしたほうがいいだろう。
確定申告をするための準備
確定申告をするには、事前に準備しておくことがいくつかある。順を追って解説しよう。
まずやるべきは、白色申告にするのか、青色申告にするのかを決めることだ。白色申告は決算の手続きがシンプルなため作業時間がそれほどかからないというメリットがある一方、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けることができず、また赤字の繰り越しもできないというデメリットがある。
青色申告は最大65万円の特別控除が受けられるだけでなく、赤字を3年間繰り越せる、家族への給与を経費にできる、30万円未満の固定資産を全額経費にできるなどのメリットがある。その一方、事前の届出が必要で、申告する際に提出する書類が多く、記入方法も難しいというデメリットも存在する。事前に届出をしない場合は自動的に白色申告となり、青色申告をする場合は、その年の3月15日まで(年の途中に開業した場合は開業後2カ月以内)に「青色申告承認申請書」を税務署に提出し、承認を得なければならない。
確定申告をするには以下の書類が必要になるため、事前に収集・保存しておく必要がある。
・帳簿
・契約書、注文書、領収書、受領書、レシート
・源泉徴収票
・「医療費通知」または「医療費のお知らせ」
・社会保険料、生命保険料、地震保険料の控除証明書
・寄附金の受領証(国や地方公共団体、特定の法人などに寄附をした場合)
・通帳、出入金明細
日々の事業の中では、帳簿をつける必要があり、売上や仕入、借入、経費など、日々の取引をすべて記録しなければならない。また、事業に関わる請求書や領収書、受領書、クレジットカードの明細書、レシートなどの内容も記載する必要がある。
帳簿への記入は可能であれば毎日、できれば1週間に1度など、定期的に行うことが望ましい。実際に確定申告の書類を作成する段階になって帳簿をつけると作業が膨大になり、また必要な書類を紛失するなどして、正しく記載できない可能性があるためだ。
なお、帳簿は白色申告の場合は簡易的な「単式簿記」、青色申告では「複式簿記」でつける。複式簿記をつけるには簿記の専門知識が必要になるため、自分でつけるのが難しい場合は税理士に依頼したり、会計ソフトを使用したりすると良いだろう。
医療費通知は所属する健康保険組合から送付される。年間の医療費が10万円を超えた場合は医療費控除を受けることができるため、自宅に届いたら金額を確認しておこう。各種保険の控除証明書も年末にかけて保険会社から送付、ふるさと納税などの寄附金受領証は寄付をした自治体や特定の法人から送付される。
なお、オンライン上で確定申告をする場合は、以下も用意する必要がある。
・マイナンバーカード
・国税庁が推奨するOSを備えたパソコンとICカードリーダライタ
・ICカードの読み取りが可能なスマートフォン
・インターネット環境
マイナンバーカードが手元にない場合は、ID・パスワード方式で申請する方法もある。税務署で職員と対面して本人確認を行ったうえで「ID・パスワード方式の届出完了通知」を取得し、そこに記されているIDとパスワードを使って確定申告を行う。なお、ID・パスワード方式はマイナンバーカードが普及するまでの暫定的な方法であり、今後、利用できなくなる可能性があるので注意が必要だ。
確定申告のやり方
必要書類がそろってから、実際にどのような手順で確定申告をすればいいのか。ここでは、5つのステップで解説する。
①確定申告書を作成する
確定申告書には「A」と「B」の2種類があり、給与所得者や年金受給者が医療費控除などを受けるため、あるいは配当所得や一時所得を申告する場合は「A」を、事業所得者の場合は「B」を使用する。税務署や確定申告会場、市区町村の担当窓口などで入手できるほか、国税庁の公式サイトからもフォーマットをダウンロードすることが可能だ。また、会計ソフトや国税庁の公式サイト内にある「確定申告書等作成コーナー」を使って作成を進める方法もある。
確定申告書は「A」、「B」ともに第一表と第二表で構成されている。第一表には申告者の住所、氏名、年齢などの他に、以下の項目を記入する。
・収入金額等:「A」では源泉徴収票をもとに給与合計額や公的年金等の合計額を記載する。「B」の場合は事業によって得られた収入を項目ごとに記載する。
・所得金額:「A」では給与所得や公的年金等からそれぞれの控除額を差し引いた金額を記載する。「B」の場合は収入から必要経費を差し引いた金額を記載し、青色申告の場合は青色申告特別控除金額も差し引く。
・所得から差し引かれる金額:「A」、「B」とも、所得から控除が認められる項目について、それぞれの金額を記入する。会社員で年末調整を行い、控除を受けている場合は、源泉徴収票に記載されている控除額を転記する。
・税金の計算:確定申告書に記載されている計算式に則って所得税と復興特別所得税の金額を計算し、記載する。
・その他:該当するものがあれば記入する。
・延納の届け出:該当するものがあれば記入する。
第二表は住所、氏名に加え、以下の項目を記載する。
・所得の内訳:所得の種類や種目、支払者の名称等、収入金額源泉徴収額などを記載する。
・総合課税の譲渡所得、一時所得に関する事項:該当するものがあれば記入する。
・保険料控除等に関する事項:保険料の控除を受ける場合は、その内容や支払った保険料の金額を記入する。会社員で年末調整を受けていて、源泉徴収票に金額が記載されている場合は「源泉徴収分」と記入する。
・本人に関する事項:寡婦や勤労学生である場合は記入する。
・雑損控除に関する事項:災害等で資産に損害があった場合、損害内容や金額などを記入する。
・寄附金控除に関する事項:寄附金控除を受ける場合は寄付先の名称や金額を記入する。
・配偶者や親族に関する事項:配偶者や親族がいる場合は、氏名や生年月日、個人番号などを記入する。
・事業専従者に関する事項:白色申告で事業専従者控除を受けている場合や、青色申告で青色申告専従者給与を支払っている場合は、事業専従者の氏名や生年月日、個人番号、事業に従事した月数などを記入する。
・住民税・事業税に関する事項:該当するものがあれば記入する。
②収支内訳書または青色申告決算書を作成する
白色申告の場合は「収支内訳書」を、青色申告の場合は「青色申告決算書」を作成する。両方とも確定申告書と同じ方法で入手できるので、同じタイミングでそろえておくと良いだろう。
収支内訳書には収入や経費の金額、売上先や仕入先別の内訳、減価償却費の計算などを記入する。一方、青色申告決算書は収支内訳書と同様の項目に加え、損益計算書や貸借対照表などを作成する。両方とも1年間の帳簿データを基に作成することになる。
③医療費控除の明細書を作成する
医療費控除の適用を受けるためには「医療費控除の明細書」を作成する必要がある。「医療費通知」または「医療費のお知らせ」の交付を受けている場合は、それを利用して明細書を作成する。医療費控除の明細書も、確定申告書と同じ方法で入手することが可能だ。
④提出する
①、②、③で作成した書類に、いくつかの必要書類を添えて税務署に提出する。提出方法は以下の3通りがある。
・税務署に持参する
・郵便または信書便で税務署に送付する
・e-Taxで申告する
必要書類としては以下が挙げられる。なお、e-Taxで申告する場合はほぼすべての添付書類を省略することが可能だ。ただし原則として法定申告期限から5年間は、税務署等からこれらの書類の提出または提示を求められる可能性があるため、保存しておかなければならない。
・マイナンバーカード(持っていない人は番号確認書類と身元確認書類)
・源泉徴収票(給与収入がある人、公的年金等を受給している人)
・保険料の控除証明書等(保険料控除を受ける人)
・寄附金の受領証(国や地方公共団体、特定の法人などに寄附をした人)
⑤納税する、または還付を受ける
納付する税額がある場合は、必要書類の提出後、期限内に納税する。納付期限は確定申告の提出期限と同じ3月15日だ。消費税(課税事業者のみ対象)の納付期限は3月31日となっている。それぞれ当日が土曜日、日曜日の場合は次の月曜日が納付期限となる。
納付の方法は以下の5通りがある。
・窓口納付:金融機関や税務署の窓口で納付する
・振替納税:預貯金口座からの自動振替で納付する
・e-Taxでの電子納税:インターネットバンキングなどで納付する
・クレジットカード納付:専用のウェブ画面から納付する
・QRコードを利用したコンビニ納付:国税庁ウェブサイトからQRコードを作成し、コンビニエンスストアで納付する
また、還付がある場合は確定申告書を提出する際に「還付される税金の受取場所」欄に振込先の口座情報を記載しておけば、確定申告書の提出からおおむね1カ月から1カ月半程度で、e-Taxで確定申告した場合は3週間程度で還付される。
確定申告をしないとどうなるか
確定申告の義務を負う人が3月15日までの申告期限に遅れた場合、本来、支払うべき税金に加えて「無申告加算税」や「延滞税」が罰金として科される。
無申告加算税は、申告期限後、税務署の調査通知を受け取る前に自主的に期限後申告をした場合は、納付すべき税額に対して5%の割合を乗じた金額が課される。調査通知を受けた後で自主的に期限後申告をした場合は、納付すべき税額に対して50万円までは10%、50万円を超える部分には15%、税務署から指摘された後で期限後申告した場合、50万円までは15%、50万円を超える部分には20%の割合を乗じた金額を支払わなければならない。ただし、その期限後申告が法定申告期限から1カ月以内に自主的に行われている場合や、期限内申告をする意志があったと認められる一定の場合には無申告加算税は課されない。
延滞税は法定納期限の翌日から納付した日までの日数に応じ、利息に相当する形で自動的に課せられるもので、延滞税の年利は最高で14.6%と非常に高利率となっている。期限内に確定申告をしない場合、本来納めるべき税額に加えて高額の罰金が科されることになるため、期限内に忘れずに申告しよう。
確定申告は忘れずに行おう
確定申告は確かに手順が煩雑で、日頃から帳簿をつけなければならないなど、負担に感じる部分が多いものだ。しかし、毎年1回、必ず行わなければならないものなので、繰り返し行うことで自然とやり方を覚えることができるだろう。また、確定申告を期限内に行わなかった場合、「無申告加算税」や「延滞税」が罰金として科せられることもある。正しい手順、期間内で確定申告をしっかり行うことを心がけよう。
からの記事と詳細 ( 確定申告はスマホでもできる!? 申告の仕方を5ステップで解説! - ZUU online )
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