「カレーライスがやってきた」(たくさんのふしぎ 福音館書店)という写真絵本を初めて読んだのは、20年以上前のこと。明治5年に発行された「西洋料理指南」には、カエルやエビ、タイ、ネギなどを使った日本で最も古いカレーのレシピがあって、お母さんと子どもたちが、それを参考にカレーを作るところから始まっている。
カエルはニワトリのささみのようでおいしかったけれど、いつも食べているものとは少し違う、ということで、舞台はカレーの本場インドへと移る。インドで食べられているカレーは、色んな種類のスパイスをすりつぶし混ぜ合わせたものを作り、材料と煮込む。それぞれの材料に合ったスパイスの組み合わせがあり、肉や野菜は別々のカレーになる。
当時住んでいた集合住宅に、バングラデシュ人の一家がいたので、スパイスを分けてもらい、砕いたりつぶしたりして、早速チキンカレーを作ってみた。肉と野菜とルーで作る家の物とはまるで違うと話しながら、家族で食べた時間が懐かしい。
作者である森枝卓士さんの「干したから…」(フレーベル館)という、世界中にある干した食べ物と、それを作る人、売る人、食べる人が出てくる絵本も面白かった。会津には、貝柱、しいたけ、豆麩[まめふ]、きくらげなどの干した物と、里芋や人参などの日持ちのする根菜類とを合わせて作るこづゆという郷土料理がある。ここにも先人の知恵が詰まっていたことに改めて気づいた。
奥会津の食文化の調査で来られた森枝さんと、2月初めにお会いした。水俣市で生まれた森枝さんは、取材で来日していたアメリカ人のカメラマン、ユージン・スミスと高校生の時に出会い、大学卒業後報道写真家としてカンボジアの内戦などを取材したそうだ。戦争や政治を語りながら、その土地の人々が何を食べているかを知らなかったことに気づき、人々の生活を知るために食の写真を撮るようになったと話してくれた。
森枝さんの「食べているのは生きものだ」(福音館書店)には、モンゴルの草原で暮らす人たちが出てくる。草の少なくなる冬や来客があった時、彼らは飼っているヒツジを殺す。肉は焼けた石で蒸し焼きにして食べる。血も内臓も食べる。また、ラオスの電気やガスのない山奥の村では、飼育しているトリやブタだけでなく、ネズミやトカゲのような野生動物を火で焼いて食べている。昆虫も食材にする。
世界には様々な食があること、自分たちは命をいただいて生きていることが写真と文から伝わってきた。森枝さんの他の絵本とともに、出会えてよかったと思える一冊である。
話をお聞きした数日後に、トルコ南部とシリア北部の国境地域で、大きな地震が起きた。甚大な被害に驚きながら、12年前の震災を思い出している。寒さの中、恐怖や痛みを抱えて震えている人はいないか。食事は届いているのか。いつもの食卓を囲める日が、早く戻ってくるようにと祈りたい。(前田智子 児童文学者)
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