マーケティングの現場で当たり前に用いられるロイヤルティー指標の代表格ともいえるのが、「NPS(ネット・プロモーター・スコア、顧客推奨意向)」だ。経営層にも人気が高い一方で、指標としての信頼性を指摘されることも多い。今回は「エビデンス・ベースト・マーケティング」を提唱する南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ教授の指摘を皮切りに、エビデンスに基づいて建設的に考えるための視点や思考を学んでいこう。
▼前回はこちら NPSは「3掛け」でちょうどいい? 提唱者の思惑とすれ違う事実「エビデンスに基づいて建設的に考える」ための5ステップ
本連載を開始以降、読者の方に「エビデンスに基づいて考えるとは具体的にどういうことなのか」「何かコツのようなものがあるのか」といった質問をいただくことが増えました。特に筆者が意識しているのは、「(1)疑問→(2)原文→(3)別ソース→(4)境界条件→(5)観察」という順番で、事実を仕事に落とし込んでいくことです。
(1) まず、普段疑うことのない“当たり前”に対して「本当か?」と疑問を投げかけることが出発点になります。きっかけは本でも、記事でも、論文でも、データでも構いません。
(2) 次に、その当たり前の“基”となっている原文に当たります。経営やマーケティング分野だと、やはり海外の研究に行き着くことが多いですね。そこで(1)の指摘やデータと見比べて、何が問題なのか、どういう対立構造があるのかという全体像を把握します。
(3) そうした視点を持ちつつ、(1)とは異なるソースに当たっていきます。つまり、別の研究者が別のデータで見れば、また違うファクトが浮かび上がってくるのではないか、という視点で考えてみるわけです。
(4) 今度は境界条件を探していきます。ざっくり言うと、「この理論は、こういう場合には当てはまるけど、こういう場合には当てはまらない」といった場合分け・使い分けに踏み込んでいるデータや研究を新たに探します。
(5) 最後に観察です。(1)~(4)を通して得られた視点や考え方が、関心のあるカテゴリーやブランドにも当てはまるかどうかを確認していく作業です。筆者の場合であれば、クライアントの戦略・施策にどう役立てるかが最優先になります。必要があればデータを取り直し、再現可能か確かめることもあります。
このようなフェーズを経て、ファクトやエビデンスを自分の仕事に落とし込んでいきます。上記以外にも批判的思考のアプローチはあると思いますが、その時々の課題感や問題意識が起点となるため、マーケターにとっては有意義なステップになるかと思います。今回はNPSを題材として、「エビデンスに基づいて建設的に批判する」という思考の流れを追ってみたいと思います。
疑問:ロイヤルティーは高いのに売り上げが減っていく矛盾
バイロン・シャープ教授によると、企業の成長はライトユーザーへの浸透が鍵を握ります(Sharp, 2010)。大半のブランドは負の二項分布(*1)に従って成長するため、推奨意向の高いファンやロイヤルユーザーばかりの顧客構成にはなりません。成長するときは、ブランド関与も態度的ロイヤルティーも低いライトユーザーを多く取り込みながら成長します。推奨意向を聞けば、11段階で5や6のあたりを付けるような「どちらでもない、どちらともいえない」人たちです。
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