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Wednesday, July 1, 2020

濃緑の芝を守る 埼玉スタジアムのグラウンドキーパー 輪嶋正隆さん(65)<スポーツが戻ってくる> - 東京新聞

 「やっと、また始まる」

 サッカーJ1の再開まで1カ月を切った6月上旬の埼玉スタジアム2002(さいたま市)。眼前に広がる濃緑のじゅうたんのようなピッチを見つめるグラウンドキーパー輪嶋正隆さん(65)の日焼けした顔が引き締まった。「いつ再開しても使える状態にしておくのが私たちの使命」。選手たちを迎える準備は万端だ。

 新型コロナウイルスの影響で、2月下旬に公式戦が中断して以来、3月、4月、5月と再三にわたり再開が先送りされたJリーグ。先が見通せない中でも、輪嶋さんらは毎日3度、ゴール裏にある百葉箱を開けてピッチの気温、湿度を確認し、地中温度計で地温を測定する日課は変わらない。芝も一日おきに長さを22ミリに刈りそろえてきた。

 水分や栄養は足りているか、病気の予兆はないか。芝の微妙な色つやを見極め、手指や足の裏の感触で確かめる。現場で得た自分の感覚と、開場から19年間蓄積してきた測定データを照らし合わせ、芝の状態を探る。「プロがプレーする場所。私たちもプロでなければいけない」。積み重ねてきた日々に自信をにじませる。

 「スタジアムから感染者を出してはならない」と、感染防止対策にも抜かりはない。感染リスクを減らすため、管理担当と作業員の計9人をそれぞれ2組に分けて1日おきに業務に当たった。近づいての会話も禁止し、「密」を避けるために自家用車で昼休みを過ごす職場の仲間もいた。再開に向け、細心の注意を払っているのは選手だけではない。

 サッカー専用として国内最大の6万3700人を収容するスタジアムの開場時から芝管理を担当してきた。スタンドを覆う屋根の影響でピッチに日陰が生まれ、エリアによって日照時間がばらつく難しさがありながらも過去4度、Jリーグのベストピッチ賞にも輝いた。それでも未曽有のコロナ禍のシーズンに向けて不安はある。

 スタジアムの「寒地型芝」は常緑だが、夏に弱い。しかし、延期に伴う過密日程で、再開直後の夏場はこのスタジアムで週1試合のペースで試合が行われる。養生の機会も限られそう。通常以上の芝の傷みが想定され、輪嶋さんは「今までの経験でこなすしかない。絶対に選手たちにけがをさせるわけにはいかない」と覚悟を示す。

 輪嶋さんには忘れられない光景がある。6年前、浦和のサポーターが差別的な横断幕を掲げた処分として無観客で行われたJ1清水戦。芝のチェックのため、その試合をメインスタンドから観戦していた。選手の声、ボールを蹴る音までもはっきり聞こえる異様な雰囲気だった。

 中断明け初戦は無観客で開催されることになるが、「ピッチは私たちの作品。できれば、多くの人に早くスタジアムで見てほしい」と輪嶋さん。丹精込めた芝の上で躍動する選手たちの姿とともに、大観衆で埋まったスタジアムの景色に思いをはせている。(唐沢裕亮)

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July 01, 2020 at 07:41PM
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