<コロナ禍のMLB取材(2)> コロナ禍前後でMLBの取材現場が一番変わったのはやはり、選手と報道陣の距離だ。以前は試合前後に選手のクラブハウスに入り、その場に選手がいれば囲みや1対1で話を聞くことができたが、コロナ禍で入室が禁止となった。選手と雑談をするだけでもその後の取材のヒントを得ることも多く、それができなくなるとあってメディアの間では失望の声が上がった。 コロナ禍後、試合前後の監督と選手の会見は記者席からパソコンを通して。今季途中から、ワクチン接種済みの報道関係者に限り試合前のグラウンド入場が許可され、それが唯一、選手らと対面で接することができる場所になった。ベンチの前に待機し、練習から引き揚げてきた選手やコーチに声をかけたり、練習前に声をかけて約束を取り付け練習後にインタビューをしたりといった取材活動が行われている。 フィールドでは監督やGMの囲み取材も行われるようになり、Tモバイルパークでの今季最終シリーズでは、エンゼルスのミナシアンGMが練習中のベンチ前で番記者たちと談笑する姿もあった。ポストシーズンではオンライン会見ではなく室内で対面の会見も行われており、徐々にではあるがかつての取材風景が戻りつつある。 だがそれでも、メディアにとって満足できる状況にはまだ遠い。全米野球記者協会(BBWAA)は、コロナ禍前と同じ取材環境に何としても戻したいと、昨年から奮闘を続けている。取材対応の仕方を決めるにはMLBと選手会の合意が必要で、BBWAAの幹部はMLB担当者と密に連絡を取り交渉。本音では取材対応が煩わしい、できればやりたくないと思っている選手は少なくないため、BBWAAは取材機会を縮小されないよう常に要望を出し、プッシュを続けなければならない。選手と報道陣による攻防戦である。 果たして、コロナ禍前のように記者がクラブハウスに入れる日は戻ってくるのか。記者が来ないという気楽さに慣れた選手は、再びどうぞと、そう簡単には言わないのではないかという懸念もある。 ただその一方で、オンライン取材になったことで外国人記者が遠い異国から会見に参加できるというメリットも生まれた。日本人記者もそうだが、ベネズエラやドミニカ共和国にもオンライン会見の恩恵を受けている記者が多いと聞く。米国に行くことのできないベネズエラのある若い記者は、オンライン会見で選手に直接質問することができただけで、舞い上がるほど感動したという。コロナ禍が完全に過ぎ去った時、オンライン会見の良い点は残ってほしいと願うが、どうだろう。【水次祥子】 (この項おわり)
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