メディアへの情報発信の定番である“オールドツール”「プレスリリース」。実は今、役割が大きく拡張され、マーケティング活動の一環として活用する企業が増えている。その一方で、情報をただ流すだけの、旧来の手法しか実践していないケースも散見される。SNSなどの企業が生活者と直接つながれるツールが全盛となった今、プレスリリースの役割は何か。そして、どう活用すべきか。特集の第1回と第2回では、専門家と共にプレスリリースの新しい活用法を探る。
報道機関やメディアに向けてニュースを送るもの。こんなプレスリリースの概念が今、変わりつつある。
「大きな変化は2つある」。そう語るのは、広報・PRを密接に組み合わせたマーケティング戦略を推進する井上戦略PRコンサルティング事務所(東京・渋谷)代表の井上岳久氏。その2つとは、プレスリリース自体の「役割の変化」と、それをつくり送り出す「組織の変化」だ。
まず1つ目の役割の変化について。「もちろん、メディアへ情報を発信して露出につなげることがプレスリリースの第一義であることは、今も昔も変わらない」と井上氏は力を込める。広報担当者がメディアの特性や担当記者の興味関心を把握したうえで、情報を出し分けたり、アプローチを変えたりといった王道の手法はいまだに効果が高く、重要だという。だからこそ、広報担当者には社内外とのコミュニケーション、市場動向の把握、情報の精査など、多様なスキルや経験が必要とされ、優秀な広報パーソンは引く手あまたの状態にある。
だが、その一方で、「プレスリリース情報をベースとして記事を書くウェブメディアが増えていることに加え、生活者などへ情報を発信するツールとしてプレスリリースが利用されるケースが増えてきている」と、井上氏は役割の変化を話す。
「従来、プレスリリースを出した後、掲載される場合は事実確認や追加情報の問い合わせがメディアから来た。だが、最近は問い合わせがなくリリースベースで記事化されることも多い」と、ある企業のベテラン広報担当者は語る。そのため、リリース上で情報が完結することが求められる傾向にある。これは生活者向けという点でも同様だ。「つっこみどころや疑問点をあえて残しておくことで、取材につなげる」といった駆け引きではなく、ストレートに1次情報として完結することが必要になってきている。
前述のように、メディアごとの出し分けなどはハードルが高く、実はプレスリリースの活用に着手できていない企業もまだまだ多い。出したとしても、ただ事実をまとめて自社HPにひっそりと載せる程度という企業も多いだろう。そんな状況の中、プレスリリースの配信をサポートする「プレスリリースサイト」の普及によって、届け方も大きく変わっている。
プレスリリースサイトの代表格が、PR TIMES(東京・港)が運営する「PR TIMES」。利用企業数は6万5000社、上場企業の利用率は50%を超え、月間2万件以上ものプレスリリースが公開されている。
登録メディア関係者のみが閲覧できる情報もあるが、基本的には一般公開されており誰でも見られる。実際、商品名やサービス名、企業名などでウェブ検索をすると、PR TIMESのリリースページにたどり着くケースも目立ち、検索流入も大きいとみられる。その証拠に、月間PVは5800万超(21年8月時点)という規模になっている。「SNSの普及によって、ソース(1次情報)を求める生活者も増えており、プレスリリースが直接引用されるケースも目立つ」と、PR TIMES取締役で経営管理本部長を務める三島映拓氏は話す。
企業にとっては、メディア向けと生活者向け、どちらにも向けた1次情報の発信の場であり、ある種オウンドメディア的な位置づけにもなっている。また、「LP(ランディングページ)のように活用している企業もある」と、PR TIMES MAGAZINE編集長の丸花由加里氏は指摘する。例えば、複数のプレスリリース間でリンクを飛ばして“回遊”できるようにしたり、申し込みページへの直接のリンクを張ったりといったケースもある。まさに第2のホームページともいえる。以前紹介した岡山発のバター専門店も、プレスリリースをアーカイブとして捉え、情報を蓄積することで価値を高めていっている。
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